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ページ公開:2020/04/21


NANO DIVERナノダイバー


プラットフォームプレイステーションポータブル
開発プレミアムエージェンシー
発売タカラトミー
発売年月日2011年 9月
ジャンルアクションRPG
プレイ人数1〜4人
セーブデータ1つ384kB


システム シナリオ グラフィック サウンド ゲームバランス その他
柔軟性あり 考証が怪しい マップの嫌悪感に注意 種類に乏しい クソボス多数 ―SIMPLEシリーズVol.○○―
THE ウイルスハンター

(大ウソ)





※※※今回のレビューはネタバラシを含みます※※※


・ゲーム概要と前置き

 PSP末期に発売されたアクションRPG。
 巨大なボスと最大4人協力プレイで戦闘するという内容で、ゲーム画面の構成は画面上部にプレイヤーのHPゲージを配置し、すぐ下にダッシュなどに消耗するスタミゲージを配置、画面右側にミニマップの、右下にアイテムアイコンがあるというもの。
 キャラクターの操作は「」と「」の組み合わせが攻撃で、「」がアイテム、「×」が回避。
 「L」ボタンで視点をリセットできるがロックオン機能は無く、親指でアナログパッドを押さえキャラクターを操作しつつ人差し指で十字キーに触れ視点を調整する操作が重要・・・。

 くどくどと書いたが、本作を一目見れば誰もがこんな一言を発するだろう。
 「モンハンコピーだこれ!」と。

 「2」と「2G」合わせた売上は600万本弱!名前通りの怪物的なヒットを記録した「モンスターハンターポータブル」シリーズの後追いとしてかPSPではやたらと3人称視点のアクションRPGがリリースされたが、本作はその中でも特に潔いというか、安直 正直と言うか、まあ予想に違わない一本である。

 ・・・ぶっちゃけもうレビューの半分が終わってしまった感があるのだが、「未知のウィルスがもたらす恐怖と戦う医療現場」という本作の世界観は現在の我々、「COVID-19」すなわち「新型コロナウィルス感染症」に生活を一変させられた我々を描くかのような内容であったため、今だからこそ本作の体験には特別な意義が込められるように思う。
 一部レビューの趣旨が他のレビューとは異なるので「特別編」として分けつつ、急ぎ扱ってみたい。


 (なお、以下に最低限の配慮としてCOVID-19関連の情報サイトへのリンクを掲載しておくとしよう。)
 ・日テレNEWSの特設サイト:https://www.ntv.co.jp/news_covid19/
 ・サラヤ株式会社より、清潔な手洗いのすすめ:https://family.saraya.com/tearai/index.html
 ・丸善出版より、加藤茂孝博士のコラム「【コラム】新型コロナウイルスはどう落ち着くのか?」:https://www.maruzen-publishing.co.jp/info/n19786.html
 ・丸善出版より、加藤茂孝博士の著作より抜粋「『続・人類と感染症の歴史』の第9章「SARSとMERS」を公開します。」:https://www.maruzen-publishing.co.jp/info/n19784.html


・キース・シュナイダー

 本作の世界観では人々は「LOSTウィルス」という病原体に苦しめられている。
 感染経路は基本的に不明、症状としては感染した臓器の機能を停止させ致死率は90%以上に至るとかいうトンデモ設定のこのウィルスは驚異的な速度で変異を繰り返し、ワクチンや薬物の一切が通用せず、ただ一つの画期的な方法を除いて治療法が存在しないとされている。
 ただ一つの画期的な方法・・・それは、武装した人間をナノレベルまで縮小して患者の体内に送り込み、ウィルスを物理的に破壊してそのサンプルを採集、さらなる治療の足掛かりとする「ナノダイブ・オペレーション・システム」である

 そして、この「ナノダイブ・オペレーション・システム」を施術できる組織は2つに絞られている。
 一つは特定生物対策機関、通称「SOCO」。医療の最先端として日夜感染者の治療に尽力している組織だ。
 もう一つは「OVEL」。ウィルスに対する社会不安の広がりを受けて設立された、感染拡大の阻止を最優先に活動する国際機関である。
 非常事態においては国家に対し強制力のある封鎖命令を出す権限が与えられている一方、時にはあえて感染者を見殺しにしてでもウィルスの拡散阻止を優先することもあり、その活動内容から人類最後の砦とも例えられている。

 ・・・という背景のもと、主人公は無鉄砲で理想主義(だが無言キャラ)なSOCOの新人ダイバーとして描かれ、まるで成功の見込みがないと言われるようなオペにも果敢に挑んで奇跡的な成功を収めてゆく、というストーリーが展開されてゆく。
 また、このストーリーの中で対称的な当て馬、つまり合理的で現実主義なOVELのエースダイバーというライバルとして「キース・シュナイダー」という人物が登場する。
 一見すれば、熱血系の創作作品にはよくいるテンプレートだろう。

 しかし、この男にはそれなりの背景が設定されている。
 以下はネタバラシになってしまうが、今あえて本作を語るとすればこの男について見逃すことはできない。

 まだキースが幼い頃、冬の寒さ厳しい日。彼の生まれ育った田舎町にLOSTウィルスに感染した疑いのある一人の旅人が訪れた。
 医者であったキースの父親は感染の懸念を理由に旅人を町はずれの小屋に隔離してしまうべきだ、と訴えたが、町長は「それではあまりに非人道的である」と旅人を暖かく迎え入れた。
 異常を察知したSOCOのダイバーが到着する頃には、町はウィルスの爆発的な感染によってほぼ全滅していたという。
 キースは辛うじて命を救われたが、この惨劇の責任は誰にあったのだろう?
 善意はあったが無知であった町長か、賢明ではあったが発言力の無かった父親か、無自覚の悪をもって訪れた旅人か、はたまたその旅人を許してしまったそれ以前の土地の人か――。
 この一件によってキースが抱いたのは、ウィルスそのものとともに、感情に流される「人間の弱さ」に対しての怒りであったという。

 そしてOVELのエースダイバーとなり、LOSTウィルスによって物理的に命を脅かされるようになった現在では「恐怖に立ち向かうことこそが人間の強さである」という考えに至っているらしい。
 過度に恐れるでもなく、過度に楽観視するでもなく、恐怖の対象を直視しつとめて現実的に対処できることが人間の強さであり、これによってこそかつての天然痘ウィルスの根絶が成ったのだ、と。
 ・・・もちろん、この人生論に待ったをかけるのが本作のストーリーと言うことになるが、なかなか感じ入る所のある設定ではないだろうか。
 フィクションだからこそ言ってしまえたこうした大胆な意見が、今現在の我々にとってはリアリティのある発奮として響いてくれるのではないか、と耳を傾けたいところである。


・ゲームシステム

 とまぁ、啓発的な話はここまでにして後はいつも通りにゲーム内容を見てゆこう。
 結論から言えばとても残念なのではあるが。

 基本のゲームシステムはモンハン的だ。
 つまり、クエストを受注してエネミーと戦い、素材を集めて装備を作ったらより強いエネミーに挑んでゆく・・・という基本システムに、装備が武器1種・防具5か所だったりエネミーを倒した後はぎ取りする必要があったり複数のエリアからなるマップの中でボスエネミーを探し回ったり、といった要素で細部を詰めた、まあ早い話がモンハン的なのである。
 ボスエネミーをマップに表示する「ターゲットサイト(≒ペイントボール)」、即座にスタート地点に帰還し体勢を立て直す「ターゲットSP(≒モドリ玉)」、設置後侵入した敵をマヒさせる「アンチVフィールド(≒シビレ罠)」、といったアイテムが支給品として配られるのも、まあ予想の範囲内と言うべきかなんというべきか。
 ここまで徹底してるのは珍しいはずであるが

 これらを踏まえたうえで本作独自のシステムとしては、一つに「ボスレシオ」と「感染度」の概念がある。
 改めて言うと本作の戦闘の舞台は患者の体内で、「エリア」として区分けされているのはそれぞれの組織だ。
 これらの組織にはどれだけウィルスの影響を受けているかという「感染度」の概念があり、マップ全体でこの感染度が高ければ高いほど「ボスレシオ」が上昇、ただでさえ強力なボスエネミーにステータス上昇効果が発生してしまうというシステムである。

 これに対し、「感染度」はそのエリアに出現している「感染スポット」を調査することで治療し引き下げることができる。
 感染スポットには必ず中型ウィルス(といってもモンハンで言えば並みの小型モンスター程度である)がセットで配置されており治療を妨害してくるので、まずはこれらを排除し安全を確保したうえで治療を行ってゆくというのがセオリーとなる。
 つまり、複数のエリアで敵をせん滅して回ることで時間をかけても安全にボスを下すか、あるいはエリアを無視してボスに直行しリスキーに時短を図るか、ある程度クエストの攻略スタイルに裁量の幅を持たせているわけである
 特に安定性を重視するとボスのいる箇所を避けながらザコを殲滅して回る、というモンハンにはあまり見られないプレイスタイルとなり、これはむしろ「PSPo」の道中に近いかもしれない。
 この二つの選択はまた体内を完全に治療してからボスを倒す、もしくはボスレシオが高い状態でボスを倒す、という条件を達成することでクエストクリア時に「特別報酬」が発生するという形でも促しており、本作の数少ない工夫点として挙げられるだろう。

 ほかに「本作の武器」、「本作のボス」、「オペレーターの存在」、といった点がモンハンとの差異として挙げられるので、一つ一つ詳しく見てみるとしよう。


・武器

 モンハンと同じく、キャラクターの攻撃や移動アクションを決定づけるのは複数種類から選択した武器だ。
 本作ではソード、ラージソード、インジェクション、ナックルシールド、というバリエーションがあり、それぞれの得意不得意からひとつを選択して戦うことになる。

 ・・・ん?

 二度見してしまうところだが、ソード、ラージソード、インジェクション、ナックルシールド、の4種類ですべてである
 それもアイテムごとにリーチやモーション速度、コンボの段数と言った差は一切無いようで、ソロでもマルチでも徹頭徹尾この4通りしかキャラクターの動きにバリエーションが無いと言うことになる。

 さすがに足りなくね

 種類ばかりにこだわって武器間のバランスが悪いのはもちろん問題だが、一方でこれしか選択肢がないというのは単純に飽きる。
 ソロで気分転換するにもマルチで普段使わない武器種と組むにも、本作は底の浅さを感じずにはいられないだろう。

 さらに、ネタバラシになるが本作に登場する武器アイテムは1種別につき30種程度。
 皮肉なことに本作は全体的に素材アイテムのドロップ率が良く、極端に物欲センサーに引っかかると言うこともなくサクサク素材が集まってゆく。
 本来歓迎するべきところなのだが、この地力の貧弱さではますますSIMPLEなプレイ感を与えかねないところである。

 ・・・不満はさておいて、それぞれの具体的な性能に目を向けてみよう。

 ・ソード
 片手剣。アームガードの中に刃が折りたたんであるという構造で、攻撃の素早さと抜刀中に移動速度が落ちないこと、また「ガード」を使用できることをメリットにしている。
 モンハンで言えばズバリ片手剣だが、距離を詰めつつ攻撃できるジャンプ斬りがなくどうしてもリーチの短さが気にかかる。
 ガードを駆使して相手との位置関係をキープし、細かいスキを逃さず積極的に攻撃を加えてゆくことが肝要だ。
 では4段までの連続攻撃、では段数に応じてモーションの大きい強攻撃、+の必殺技ではスタミナをすべて消費してタメ動作の後遠距離まで届くカマイタチを発射する。

 なお「必殺技」はスタミナをすべて消費し隙も大きいうえ、「免疫細胞」の友好度を下げるというデメリットまである。
 「免疫細胞」はマップの中に不規則に現れて漂っているというキャラクターで、友好度が高い場合はプレイヤーをランダムに回復しウィルスをスタンさせる補助攻撃を行ってくれるのだが、友好度が低く敵対している場合はプレイヤーにスタン攻撃を仕掛けてくる。
 強力なボスとの戦闘中に死角からスタン攻撃をもらえば命取りになりかねず、また友好度が高い場合の回復というのも時に6割くらい一気に回復してくれるのでいたずらに有効度を下げるのは得策ではない。
 未確認だがこの友好度をマルチプレイ中のプレイヤー間で共有するとしたら、基本的に封印するのが無難なアクションだろう。
 ただでさえ使いづらいのだから、これは余計な設定だったと苦々しく思うところだ。

 ・ラージソード
 大剣。キャラクターの身の丈ほどもある巨大な剣で、モーションに回転攻撃を多く持つことから攻撃範囲が広く威力も高い。
 ただし攻撃動作が遅く「ガード」も使用不可。ガード操作に相当するボタンは機能が無く遊んでいる。
 モンハンで言えば練気ゲージの無い太刀が近いだろうか、本作の回避は無敵時間がほとんど無い(あるいはまったく無い?)のでどうしても被弾前提になる大雑把な武器である。
 では動作の遅い連続攻撃、では段数に応じて力を込めた回転斬りか突き攻撃、+の必殺技ではものっすごく長い溜めの後跳躍してから地面を叩きつけ広範囲を衝撃波で攻撃する。やはり封印推奨。

 ・インジェクション
 注射器。チェーンソーのような構えで腰だめに扱い、正面を突いて攻撃する機器。また薬品を散布して正面広範囲にダメージを与えることもできる。
 モンハンで言えばガードとステップの無いガンランスである。動作が非常に遅く頻繁に抜刀と納刀を切り替えなければ敵に追いつけないうえ、抜刀斬りで2歩もオーバーランし、そもそもの横の攻撃範囲が狭いのでとにかく攻撃が当たらない。
 ただし単純攻撃力は最強。炸裂攻撃は後述するボスのデザインから重宝する場面が多く、時間効率を考えると扱えるようにしておいて損はない。
 では動作の遅い突き攻撃、では特に高さ方向で攻撃範囲のある炸裂攻撃、+の必殺技では中距離を進んで広範囲に炸裂する薬品弾を発射する。

 ・ナックルシールド
 片手盾。ガードに特化した武器でガード時の効率が良いほか、盾を構えてガードポイントを持つ突進攻撃を行うこともできる。
 安定性が突出しており使っていて面白い武器種なのだが、壊滅的に攻撃力が低く時間いっぱいボスを殴って倒せなかった、という絶望的な状況が起こりやすい
 モンハンで言えばランスの無いランスあたりだろうか。
 では攻撃範囲の狭い殴りつけ、では主にガードポイントのある突進攻撃、+の必殺技では周囲一帯を包み被弾を無効化するシールドを発生させる。
 マルチプレイでの補助ロールとして用意されていると言えるが、基礎火力が出ないわ先述通り必殺技を使うたびに不安要素ができるわで2人プレイ程度では居場所がないような・・・。

 ・・・というわけで、改めてバリエーション足りなくね?
 4種類という数もそうなのだが、そのうえで全て近接武器なのでとどのつまり近寄って殴る以外の体験がない
 モンハンにせよPSPoにせよ射撃なり補助なりといった異なるプレイスタイルを用意してマルチプレイでの多様性を演出していたわけだが、本作は後発作ながらこの重要な部分こそを追随しそびれてしまっているわけだ。

 一個の作品として、とても残念な仕上がりだろう。

 また、本作のアクションは全体的に出来が悪い。
 スタミナを消費する割にダッシュがあまり加速しないことや、崖を降りられるポイントが限定されていること、またそのうえでアイテム使用後の謎ポーズや抜刀・納刀での立ち止まり、振り向き時のオーバーランなどモンハンの悪い部分こそはしっかりと模倣してしまっている。
 操作のレスポンスが悪く、端的に言えばプレイしていてイライラばかりが募ってゆくのだ。
 こうキャラクターが思い通りに動かないとあっては強大なボスと戦ってゆくという魅力も激減しようというものである。


・ボスキャラクター

 モンハン同様、本作の魅力の骨子と言えば強大なボスキャラクター群だ。
 特に本作はすべてのクエストでキャラクターの数倍、メートル換算で全長十数mはあろうという巨大ボスを相手にすることとなり、そのスケール感を強調するシステムも用意されている。
 一つは「ジャンプ」というアクションで、ボスに向かって走り状態で近づくとキャラクターが発光、このタイミングで×を押すと巨大ボスの頭上まで大きく跳び上がり、長い無敵時間を獲得できるというもの。
 また、ボスには身体の各所にダメージを蓄積させて「部位破壊」できる箇所が設定されており、これを一通りこなすとボスが長時間ダウンするという仕様がある。
 そしてこの2つを組み合わせ、大ダウンしたボスの頭上に飛び上がった時に使用可能なのが「アサルトダイブ」という決め技である。
 武器を構えてボスに向かって急降下し、大ダメージと共に報酬の増加というボーナスを獲得できる、見返りの大きいアクションである。
 反面撃破後のはぎ取りが出来なくなる・・・ので要するにモンハンの捕獲に相当するわけだ。
 エリアの治療や部位破壊といった下準備を経て止めを刺すという流れに爽快感があり、巨大ボスへの止めとして単純な見ごたえもある、本作で必見の要素の一つである。

 ・・・はずが、やはりというか素直に評価できないのが本作の設計である。

 冷静になって考えてみると、「近接武器しかないゲーム」で「部位破壊したタイミング」に「ボスに駆けよって発動させる」というアクションには距離において大いに矛盾がある。
 部位破壊させたと言うことは助走をつけるまでもなく懐にいると言うことだし、助走をつける距離があると言うことは部位破壊に必要な攻撃が届かないと言うことである。
 というわけで、実際にこれをゲーム内で決めようとすると「攻撃を当てて部位破壊した後急いで納刀し、走ってボスから離れ、十分な距離を離れたらUターンして接近し、ジャンプアクションを発動、大きく跳んだ後アサルトダイブを発動させる」という長ったらしい手間を必要とすることになる。
 ちんたらやっている間にボスがダウンから復帰すれば不発、走る距離が不十分であれば不発、当然離れる際に視界を確保せず壁や障害物に引っかかったら不発、スタミナが切れていてもやっぱり不発、と失敗する要素は少なくない。
 失敗したら大ダウンという攻撃チャンスを無駄にすることになるわけで、これもまた「キャラクターが思い通りに動かない」フラストレーションを溜める要素となりがちであるように思うのだ。

 また、ボスに関してはもっと単純な問題点もある。デザインが悪いのだ。
 例えばゲーム最初の巨大ボス「トラーペン」は、宙に浮かぶ4本足のクラゲといったデザイン。
 ・・・「近接武器しかないゲーム」で「宙に浮いた状態で攻撃を繰り出してくる」ボスが最初の相手なのである
 4本垂れた触手に攻撃を当てることもできるがゆらゆらと上下左右に大きく動くため位置を捕らえるのは難しく、また巨大なトラーペンが積極的にこちらに向き直るため当然のように触手はこちらから離れる動きを繰り返す。
 正面を向かれるとラージソードでも攻撃が届かなくなるくらいの幅があり、まあ要するにロクに攻撃チャンスが見つからないのである。
 さすがに本体が接地して攻撃的に攻めてくるというモーションもあるものの、モンハンで最初のボスがガノトトスやドスガレオス(ともに音爆弾無し)だったら余裕でブン投げるところだろう。

 ついでとして、ゲーム開始後に受注できるクエストのボスを列挙してみると

 ・トラーペン
 上述通り。ロクに攻撃が当たらない。

 ・ダゴム
 4本足のクモ?トラーペンと事情が似ているが常に足が接地しているため多少マシではある。4本の足をすべて部位破壊するとアサルトダイブを決める分かりやすいチャンスともなる。

 ・トラーペン亜種
 トラーペンとほぼ同様。ロクに攻撃が当たらない

 ・トゲッター
 ドングリに3本の足と鉄球付きの触手が生えたようなもの。
 一見動きが鈍重でどこからでも狙えるが、振り向きの際に全方位に攻撃判定を出したり十数m相当のバックステップを行ったりと攻撃を拒否する能力に関してはダゴムより上。
 また部位破壊による外見の変化が乏しく非常に分かりづらいうえ、「顔面」に関しては段差を利用しなければ攻撃が届かない。

 ・リュオーネ
 4本足のアリ・・・かクモ。口から糸を吐いて標的を行動不能にする、という行動を運次第で複数回繰り返すハメを使う可能性がある。
 とはいえこれを除けば極端に理不尽な動きのない無難なボスである。

 ・ヒートロン
 炎属性のトラーペン。ロクに攻撃が当たらない

 ・リュオーネ亜種
 リュオーネとほぼ同様。

 ・・・トラーペンそんなにいる?
 また、外見に関しても「正面」が分かりづらい幾何学的な相手が多く、囲んでタコ殴りにするしかないマルチプレイはヘイト管理のしようがないなど余計大味になりそうである。

 そして、これらを一通り倒して次のランクに進んだときにより最悪のボスが現れる。
 名を「ショルゲス」といい、外見は両腕代わりの細い触手が生えたミミズのようなもの、挙動としては重力を完全に無視したワイヤーアクションといった調子。
 基本的に攻撃の届かない頭上に浮かび、攻撃と同時に出現、遠距離まで走り抜けたり広範囲に旋回攻撃を繰り出したりしたのち特に硬直もなく再度退避、という行動パターンを延々と繰り返す。
 地上にいる時の行動も全身に攻撃判定のある突進で遠くへ走り抜けたり、周囲一帯を攻撃する旋回攻撃を繰り出したり、ノーモーションで十数メートル相当バックステップしたり、とどれをとってもクソ挙動以外のものがない
 辛うじて突進に追いついて獲得した攻撃ターンさえ、一定ダメージを受けてのひるみでキャンセルして暴れ直すという有様で、何が何でもプレイヤーに攻撃させないという悪意の塊のような存在である。

 確かに難しい事は難しい。強い事は強い。
 極端な話、ゲームを難しくするのであればプレイヤー側の有効な攻撃をことごとく封じればよい。
 ゲームによっては高い防御力だったり耐性だったりと言った形になるが、「攻撃が届かない」ほどシンプルにして致命的な対策もないだろう。
 ただ、これは課題に対して様々な解決策を検討する「攻略」の底が浅く、分かり切った解答の実行を時間と運で引き延ばす「作業」にしかならないことが大概であろう。
 結局この難しさは退屈でつまらないものにしかならないわけだ。

 射撃武器のあるモンハンですらリオレウス亜種の悪名は轟くところであろうに


・オペレーター

 また、本作のモンハンとの違いは明確なストーリーの存在、および「オペレーター」の存在にもある。
 オペレーターとはすなわちプレイヤーの「治療」において状況報告や誘導を行って円滑な行動を助ける存在であり、プレイヤーとは別の形ながらともにウィルスと戦うパートナーである。
 本作では「シルビー・クロス」という女性がそれを務めるのだが・・・。

 ・・・どっこい、びっくりするくらい無能である

 いや、オペレーターが有能すぎるとそれはそれでネタバラシの嵐になる(例:ロックマンX5のエイリア)のだが、それにしても報告の内容が悪いのだ。
 具体的には体力低下時や状態異常発生時の報告である。
 攻撃を食らった後即座に「離脱して!」や「治療薬を使って!」と急かすのだが、スキを見せて納刀しなければアイテム一つ使えない本作。回復したいと焦る気持ちは言われずともよくわかっている。
 さらに、これらの報告の後には「リペアキットで体力を回復できるわ」や「リークリカバーで状態を回復できるわ」といった追い打ちをかける。
 どや顔で言っているのが目に浮かぶが、いやだからそんなチュートリアルレベルのことは言われずともよくわかっていると
 聞きたいのは事後報告では無く、事前に大技が来るとか状態異常攻撃に気を付けろとかといった注意喚起である

 より必要な情報としては現在のボスの位置やボスの残り体力の報告、ボスがエリア移動をもくろんでいる際の警告といったところだろうか。
 また、ダイブ可能なタイミングを察知して「ボスが行動停止!決めるなら今よ!」なんて合図があると鼓舞されるかもしれない。
 実のところボス戦では回復の催促くらいしかしないのだが

 また、一応ストーリー上のクエストで初めてのボスと戦う時にはボスの攻撃の傾向について説明を行うのだが、実態としては体力を半分ほど減らした頃にやっと「範囲攻撃が多いわね」程度の内容が届くというもの
 びっくりするくらい無能である

 この体たらくながらストーリー中ではやたらと自信家であり、「自信は成功のもと」という格言を引用しつつその気になればノーベル医学賞の一つや二つ取れるなどという失笑もののビッグマウスを叩く始末。
 一方で似顔絵やコーヒーの入れ方などが壊滅的に下手という設定で若干の親近感や愛嬌を演出しようとしているフシがあるものの、これは要するに根本的に常識的な感覚が欠如しているということでもある。
 時には一回一回の治療が命がけの肉体労働である主人公に三徹させて「新記録ね」などとのたまう場面もあり、正直言ってオペレーターの存在がマイナス要素にしかなっていないと思うところである。


・まとめ

 また、そのほかにも本作は細かなところに考察の甘さが見て取れる。
 素材を集めて自作しているはずの装備に「メーカー」の設定があったり(素材転売されてね?)、ゲーム中目にする赤血球がプレイヤーキャラよりも小さかったり(ナノじゃなくてミクロないしマイクロダイバーじゃね?)、というかそもそも「治療」をクエストにしているはずなのに常にクエストに困らないという、考え出すと非常にブラックな設定もあったり、気にし出すと頭痛が止まらない

 「医療」というテーマを題材にしているはずが特に人体知識が身につくと言うこともなく、患者の健康状態によってマップの形状や状態が変化すると言った要素も無し、ゲームの舞台がずっと生物的で薄暗い空間で構成されるあたりはコンセプトに失敗すら感じさせるところである。
 科学的な考証を言えば、ミクロの世界では重力の影響が小さくなり無重力空間で周辺の物に吸着するような動きとなるらしい。
 つまり、より立体的な機動を可能にして射撃重視のゲームデザインを行っていた方がよりテーマに沿い、ゲームとしても独特のタイトルを確立できたのではないか、などと可能性には愚考する部分があるのだが・・・。

 もっとも、本作の場合はモンハンの後追いとしてこそ世に出ることができ、世に出るためにはモンハンの後追いでこそある必要があったのではと察するところもある。
 そう考えてしまうと本作の内容は妥当という、とても残念な納得を覚えてしまうものである。

 不満点が多数あり、単純に不出来とも言ってしまえるが、それでもモンハンライクのシステムに多数の巨大ボスとの戦闘、「治療」を交えたクエスト攻略や必殺の「アサルトダイブ」など魅力となる部分はある。
 過度な期待は禁物だが、同ジャンルに飢えている人にとっては需要を感じられる一作・・・というのがゲームとしての評価の着地点というところである。

 そして一方で、ストーリーのボリュームには期待できないが、「キース」の人物像にはウィルスに対する人間の姿を描いたエッセイとして、今だからこそ読む価値があるものであると思う。





・関連作品

・「モンスターハンターポータブル」シリーズモンハン。言わずと知れたカプコンのアクションRPGシリーズ。PSP版は特にその人気の立役者だ。
強敵に挑んでアイテムを集め、集めたアイテムで強力な装備を作って更なる強敵に挑んでゆく・・・というストイックなハクスラMOものであった原作をPSP向けにリファインし、結果ハードのニーズと合致して爆発的な人気を獲得、数値としてもPSPで最もセールスを挙げた作品およびシリーズという形で評価された。
PSPのゲームに同ジャンルが異様に多いのは、本作の流行によるところが大きいのだろう。
・「ファンタシースターポータブル」シリーズセガのアクションRPGシリーズ。1・2の開発はアルファシステム。
「1」はオンラインゲーム「PSU」の戦闘面を携帯機向けのコンパクトさで移植した作品で、多彩な武器やクラスの選択に加え「フォトンアーツ」というヒロイックなアクションや豊富なキャラクターカスタマイズ要素を魅力としたことで独自の人気を確立。より洗練された続編「2」と合わせてミリオンセラーを売り上げたシリーズとなった。
(モンハンからは売り上げのケタが一つ落ちるが、同ジャンルとして肩を並べて語れるシリーズである)
・ライフスケイプ2 ボディーバイオニクスNHKのドキュメンタリー「生命40億年はるかな旅」をゲーム化した「1」の続へ・・・ん?
人体に関する学習教材としての側面を持たせつつ、ホバーやブーストによって立体機動可能なシューティングアクションとして遊びごたえたっぷりに作られた作品。
生物と保険の成績が上がるかも。
クリックメディック「ポケモン」のゲームフリークが開発した医療系テキストアドベンチャー。
「ミクロの決死圏」モノの内容で、手術の前に「問診」を行って患部を推理する、人体の構造を詳細に解説しつつ関連のある部位に移動してゆく、といった本格的な医療的アプローチを用意した作品。
なまじこちらを知っていただけに本作への失望がひどい。
まじかるめでぃかるコナミのダンジョン探索RPG。
いちおう人体内をゲームの舞台としているが、考証が甘いうえにゲームの舞台を単調な繰り返しにしてしまっているという負の側面ばかりが気になる作品。
本作は同じ轍を踏んだというところか?


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