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影牢かげろうII -Darkダーク Illusionイリュージョン-


プラットフォームプレイステーション2
開発テクモ
発売テクモ
発売年月日2005年 6月
ジャンルトラップアクション
プレイ人数1人
セーブデータ1つ61kB、5ファイルまで


システム シナリオ グラフィック サウンド ゲームバランス その他
作りが荒い 未完成? ダークイリュージョンに集中 残虐トラップに聴きごたえあり 葛藤はうかがえるが・・・ 魂の足りていない一作





※※今回のレビューはネタバラシを含みます※※


・ゲーム概要

 外敵に抵抗する術のない可憐な少女を操作して侵入者から逃げまどい、いざその剣が振り上げられた時に足元の罠の起動ボタンを押す――。
 プレイステーションの傑作トラップアクション「影牢」・「蒼魔灯」に続く、5年半ぶりの新作として世に出たのが本作「影牢II -Dark Illusion-」だ。
 さらに「影牢」はまた別のトラップアクション「刻命館」を発展・洗練させた作品であり、いわば本作はシリーズにおいてはじめて「続編」であることを明示した一作でもあるわけだ。

 そしてPS2水準の大幅に向上したグラフィックに、メインストーリーのフルボイス化、「ダークイリュージョン」と銘打たれた大掛かりな仕掛け演出の登場といった目を引く変更も加えられ、嫌が応にも期待感が高まる一作・・・だったのだが・・・。


・トラップアクション

 まず、シリーズお馴染みの「トラップアクション」についておさらいしてみよう。
 本シリーズは城や屋敷の一室をひとつのバトルフィールドとみなし、任意の座標の「壁」、「床」、「天井」、に「トラップ」を仕掛けて準備することができる。
 プレイヤーキャラクターは「敵」となる人間(「侵入者」)に対して直接攻撃する手段を持たないが、敵はすべからくプレイヤーキャラクターに殺意を持って接近してくるのでその経路を誘導して罠の位置に誘い込み、しかるべきタイミングでそれを起動して反撃・撃退してやることがゲームの流れとなるわけだ。

 かつ、「トラップ」とは単体で終わりというものではない。
 例えばトラバサミが相手を拘束する「ベアトラップ」は単独では足止めにしかならないが、そうして足を止めている間ならば巨大な振り子刃が激突する「ペンデュラム」を当てやすく、当てた衝撃で吹き飛んだ相手にはその先で壁から鋭い槍の束が突き出る「ギルティランス」が待ち受けている・・・とこういう調子だ。
 こうして複数のトラップを連続でヒットさせることは「トラップコンボ」として評価の対象になり、この評価が高いほど多くの資金を得てさらに強力なトラップの開発に結びついて行くこととなる。
 臨機応変に敵の行動に対処して誘導するというアクションの攻略、熟慮して目的に沿ったコンボを構築するというパズルの攻略、敵に一気呵成に攻撃して大ダメージを与えるアクションの爽快感、課題に対して想定した通りの結果が返ってくるパズルの達成感、二つのゲームジャンルの面白さを高いレベルで複合的に味わえるのが本シリーズの魅力であるわけだ。
 このシリーズの下地があるわけだから、本作だってもちろん一定の面白さは保証されている

 ・・・はずだったんだけどなぁ

 本作の場合、ここにいくつか不要な変更を加えてしまったせいでこの前提が崩れかけてしまっている感がある。
 一つは「主人公の体重の増加」。
 ・・・もとい「コリジョンによる挙動の変化」。
 比ゆ的な表現を重ねれば、従来策ではガチムチの鎧騎士に薄着の少女が体当たりした場合、薄着の少女の方が押し負け相手はびくともしなかった。
 つまり一度トラップにかかった相手はトラップの効果以外で移動することはなく、これによって「ペンデュラム」などの相手を移動させるトラップが非常に重要、かつその挙動を1マス単位で正確に組み合わせるべきパズル要素となっていた。
 ところが本作はこれが覆って「主人公が相手にぶつかった場合、相手の方が押し動かされる」を基本としてしまった。
 何を隠そう「影牢」の時点でこうして相手を任意の位置に押し動かせるようになる「マジックバブル」という隠しトラップが用意されていたくらいなのだが、本作はこれをゲーム全編に影響する基本システムとして取り入れてしまったわけだ。
 結果、トラップの挙動を正確に把握しておかなくとも「とりあえずダウンさせて押して動かす」という力業でコンボが成立するようになってしまっており、アクションとしてはともかくパズルとしては非常に甘い設計となったのである。
 タイトルが「影牢II」でなければそう見直した作品だと折り合いもついたのだが・・・。

 それから「トラップの種類の減少」。
 「影牢」のトラップが全55種、「蒼魔灯」のトラップがベース10種×10属性+隠し6つの106種(に加えレベルとリング)、だったのに対し、本作は全48種とトラップの種類に関してはむしろ減少する形となってしまった。
 そのぶん「ベアトラップ」と「ヘビークロー」など重複を省き構成が洗練された・・・ならばいいのだが、なおも「アロースリット」と「トリプルアロー」、「スプリングフロア」と「イビルアッパー」、とあまり使い勝手の変わらないトラップの続投があり、また「メガバズゾー」、「メガヨーヨー」、「パニッシャー」、の3つは「天井から回転刃が下りてきて当たった相手を吹き飛ばす」と概要がなんとも大差ない。
 最悪なのは壁トラップで、壁がせり出して相手を動かす「プッシュウォール」系と壁から矢が飛び出してダメージを与える「アロースリット」系、あとは悪名高き「デスアイアン」とまとめられるくらいにバリエーションがない。
 洗練とは言い難く、この点に関しては単純に「劣化」と言うべきだろう。
 (ちなみに「デスアイアン」とは壁からボルトロックが飛んでゆくようなトラップで、高威力・連続ヒット・長射程・広範囲・高速起動・回避不能・短チャージ・高Ark倍率(ふつうに当てるだけで連続ヒット部分に多数のテクニカルボーナスがつく)、とぶっちゃけコイツとベアトラップだけで片が付く代物である。)

 なお「通貨の仕様の変化」もある。
 本作はトラップコンボの評価点「Ark」ではなく、これに応じて出現する「Warl」がトラップ開発に使う通貨となる。
 ・・・「出現する」というのは、豚の貯金箱よろしく敵にトラップを当てたときに周辺にチャリンチャリンと石が落ちてくるのでこれを拾い集めるという形式となったのである。
 見た目がマヌケなのもそうだが、「スプリングフロア」等で強制移動した相手を徒歩で追いかけねばならないとか敵が二人いる場合位置取りの選択肢がなくなるとか勢い余って相手を押してコンボが途切れるとかひじょーに都合が悪いのでこれはただただ改悪だったと見るばかりだ。

 と、多数の改悪があるようだが「敵の防御行動」に関してはさらに質が悪い。
 ・・・動けない相手に一方的に攻撃を加え続ける「コンボ」は、痛快さの一方で単調さを招く負の側面もある。
 どういう特徴を持つ敵だろうが初めの一撃を当ててしまえばあとは無抵抗のサンドバッグでしかなく、ひとつ得意のパターンができてしまえばあとは誰にもそれを繰り返す内容にしかなりかねないわけだ。
 「影牢」の場合は、例えば鎧騎士にベアトラップを当てても刃が通り切らず防御されるとか、爆弾使いに爆弾系のトラップを当てても一切効果がないとか、といった形でここに変化を加えようとしていたがあまり十分ではなく、続編「蒼魔灯」のチャレンジモードで提示された高難易度のアプローチは「超攻撃力の持ち主で先手を取られたら負け確定」というかなり残念な代物となった。
 難しくするのが難しい、というのがシリーズの課題として挙がっていたのだと思う。
 思うが、そこで本作が採ったアプローチは「非コンボ中に有効でないトラップを当てると回避(残像を残しながら高速スライド移動)される」という代物。
 鎧騎士が唐突に阿修羅閃空するビジュアルの違和感にしろ、防御されても一瞬のスキを作り出すことだけはできたという戦術的価値の喪失にしろ、それ以外のトラップを始動にするしかないという対処法の乏しさにしろ、これはどっちかと言えば「理不尽」の類である。
 結局始動の一撃をいくつか用意しておけばコンボの内容が変わり映えしないという問題は残ったまま、こうしてトラップにしろ敵にしろ覚えてしまう「攻略上のアプローチの乏しさ」はさらに本作の目玉「ダークイリュージョン」にて完成されるのであった。


・ダークイリュージョン

 ダークイリュージョン、それは本作の題を飾る目玉要素であると同時に、本作の内容を制限してしまった呪いでもある。
 概要としては、既存作の室内に初めから用意されていた「仕掛け」のうち「吊り天井」や「焼却炉」といった部屋全体が仕掛けであるものをさらに突き詰めた概念だ。
 例えばゲーム最初の舞台「黒い森の館」の「玄関」には、来客を見下ろす巨大な仕掛けオルゴールがある。
 さらにこの部屋をよく観察すると不自然に血の跡がついた床や火の灯されていない燭台といったものがあり、この燭台はさらに火属性のトラップでなくともなにかしらの衝撃を与えることで火が付いたり消えたりする。
 ・・・そう、これはスイッチなのである。
 燭台に火を灯してから血の付いた床に敵を誘導すると「ダークイリュージョン」が開始、オルゴールが物悲しい音楽を奏でる中その歯車に巻き取られた敵が骨の砕ける音と悲鳴の伴奏を添え、曲が鳴りやむ頃頂上まで巻き上げられた敵が力なく落下する・・・というイベントシーンが挿入されることになる。
 もちろんダメージは極大、Ark評価も高く、ゲームを有利に進めるうえでも、その演出を愉悦たっぷりに眺めるうえでも、これは見逃せない要素となっているわけである。

 ・・・だもんだから、本作の「トラップコンボ」を考えると結局適当にArk倍率を稼いでからダークイリュージョンに放り込むというのが正解ということになってしまっており、内容がワンパターンになりがちだというコンボの課題にはむしろ逆効果の解答を示すものとなってしまったと言える。

 このうえで本作に登場するダークイリュージョンは「全8種類しかない(うち一つはラスボス専用)」とひじょーにバリエーションが少なく、もちろん部屋によってはそもそもダークイリュージョンが用意されていないという場所もザラにあり、そうした部屋であえて戦うことにメリットが乏しいという問題もある。
 基本として存在や起動方法のヒントが与えられておらず、発見するまで試行錯誤するという楽しみはあったと思うが・・・コンボ研究という遊び方とは何とも相反する楽しみだ。

 結局このシステムは続編「影牢 〜ダークサイド プリンセス〜」では大ダメージという特徴を削いだトドメ演出「ウィザードギア」としてリファインされ引き継がれたのだが、種類や演出で規模が縮小したうえその発見がゲーム内の課題とされたなど、余分な要素であるという感覚は変わらなかったのではないだろうか。


・ストーリー

 継母である王妃の策略によって、父「オラフII世」を殺され、あろうことか父王殺しの汚名まで着せられることになった王女アリシア。
 唯一心を許せる侍女レイチェルとともに魔神が封じられていると言われる『黒き森』へ迷い込んでしまう。

 追い詰められたアリシアは、森の館で手に入れた闇の力によって、追っ手たちを殺めてしまうのであった。

 やがて闇の力に翻弄され、次々と人を殺めてゆくアリシア。
 殺めた人々の魂は、魔神へと捧げられる。

 王を殺したのは誰なのか?
 魔神は復活するのか?
 自分はなぜここに呼ばれたのか…?

 繰り返される運命の選択。
 次第に明らかになっていく真実。
 そして、アリシアが最後にたどり着く結末とは…。

 (説明書より抜粋)

 ・・・というわけで、不老不死の「刻人(ときびと)」が支配階級として人間を統治していた「影牢」とはあまり接点のない世界観である。
 むしろ父王殺しにしろ魔神との契約にしろ「刻命館」により近いストーリーなのだが、しかして本作にも「刻人」への言及はある。
 おとぎ話と化すような長い時の以前に不老不死の刻人という存在があったこと、それが魔神に人間の魂を捧げることによって叶えられていたこと、魔神のしもべを殺した者は新たな魔神のしもべとして認められるということ・・・。
 を、ある人物だけが信じていて主人公に敵対する理由としているのである。
 残念ながらストーリーの本文は国王暗殺の謎や魔神復活の阻止に割かれているのでこの話にあまり重要性はなく、ファンサービスとして唐突に名前を出してそのまま遺言になるような演出となってしまっているが。

 ストーリーの中でもう少しこの設定を活かせなかったのか、と惜しく思うと、ネタバラシになるが本作は全15話でメインストーリーが終了してしまう
 「影牢」が全25〜26話、「蒼魔灯」が全22〜24話、だったことと比較すると半分に迫る勢いの駆け足ぶりだ。
 それもストーリー中に分岐らしい分岐がなく、正確に言えば「主人公の選択を求める場面で話の区切りがある」が「次の回は主人公が選択を済ませたところから始まる」という、ストーリー分岐の一方を作らないまま世に出してしまったような箇所があって、いちプレイヤーとしては非常に消化不良な思いである。

 また、それはつまりトラップを用いて攻略するステージの不足でもある・・・ともなりかねないが、本作はここに「サイドストーリー」といってメインストーリーに影響がない些細な話やユーモラスな話を追加で確保するようにしている。
 正直おふざけが過ぎる回もあるが、物語を早く読み進めたい人はメインだけを、トラップバトルをより楽しみたい人はサイドへの寄り道を、と間口の広いアプローチであることは評価したい。
 一度メインストーリーをクリアするとサイドストーリーの内容が別のものに切り替わる(奇数周と偶数周の2種類ある)という仕様もあるので見方によっては本編の倍のボリュームがあるメインコンテンツである。
 (そのぶん敵の登場数が少なく内容は短いが)


・サバイバルモード

 なお、本作にはステージの不足を補うものとして「サバイバルモード」というゲームモードがある。
 10人の侵入者が続々と襲撃する中、制限時間以内にこれをすべて倒せというステージを繰り返すモードだ。
 トラップは自由に持ち込むことができ、Arkなどの評価点の概念はないので瞬殺重視のコンボが物を言う変わり種であると言える。

 ・・・のだが、白状すると自身では先ほどまでこのモードのことを完全に忘れていた。
 全10ステージとそれほどボリュームがないうえ、特に縛らず挑んだせいで片っ端からデスアイアンで吹っ飛ばすだけだったのではないかと回顧しておこう。


・まとめ

 ゲームの続編とは前作の面白さを残しつつさらに新しい面白さを提示することが求められるという非常に難しいものだと思う。
 館に仕掛けた罠を駆使して戦う「刻命館」にトラップ同士の連携の概念を取り入れた「影牢」、「影牢」のトラップの性能にカスタマイズの概念を取り入れトラップ研究の奥深さを追求した「蒼魔灯」、はその点とてもうまくこの欲求に応えたものだと思うが、そこへ行くと本作は何とも弱い。
 トラップの種類は減り、メインストーリーは短縮され、難易度の調整は手段の引き算としてしかなく、追加の目玉「ダークイリュージョン」はそれだけに選択肢が集中するバランスブレイカーである。
 そして、これらは「トラップコンボの面白さ」を削っているという点で同様であり、反面本作が「影牢II」とナンバリングタイトルを銘打ったことには仏作って魂入れずの言葉が頭に浮かんでしまうところである。

 ダークイリュージョンの派手で凄惨な演出や侍女レイチェルとの危うい掛け合いなど見どころがないとまでは言わないが、シリーズ経験者にも未経験者にも勧めがたい、不足感のある一作というところとしておこう。





・関連作品

刻命館第一作。ただし、内容はまるで異なる。
影牢前作。「罠ゲー」というゲームシステムを組み上げたシリーズの起点。
蒼魔灯「影牢」寄りの続編。トラップ図鑑の名称が「刻銘鑑」になっている。
・影牢 〜ダークサイド プリンセス〜
本作から9年ぶりにリリースされたシリーズの新作
既存のトラップを「華麗」、「残虐」、「屈辱」、の3つの分野に分けトラップコンボの評価を見直し、それぞれのトラップの順番や位置を設定して半自動的にトラップコンボを完成させる「トラップシーケンス」システムを中心として「コンボ」の魅力を強く押し出した一作。
また「アーマーブレイク」という新システムや「屈辱」系トラップの確立によってお色気要素が随分と増している。
・影牢 〜もう一人のプリンセス〜
上記「ダークサイドプリンセス」のディレクターズカット版。
「影牢」以降の過去作のキャラクターがそれぞれ性能を変えたうえで使用出来たり、「エネミーエディット」で過去作のキャラクターを再現出来たり、と復刻版的な要素も多数盛り込まれているようだ。
・影牢 〜トラップガールズ〜
擬人化を題材にした青年・成人向けソーシャルゲームを多数リリースするDMMゲームスがサービスを行った異色作。
視覚面ではおおむねそれに沿ったデザインが施されているが、ゲーム内容はコンパクトながらも「ダークサイドプリンセス」シリーズを引き継いだ本格派。
トラップごとにレベルや装備スキルという育成要素を持ち、出撃コストや使用回数と言ったソーシャルゲームらしい要素と併せて自身のチームを構成するトラップの吟味に頭をひねる内容となっていた。
短命だったが、今からでもオフライン版出ねぇかなぁ。


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