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JEANNE D'ARCジャンヌ・ダルク


プラットフォームプレイステーションポータブル
開発レベルファイブ
発売ソニー・コンピュータエンタテイメント
発売年月日2006年 11月
ジャンルシミュレーションRPG
プレイ人数1人
セーブデータ1つ512KB


システム シナリオ グラフィック サウンド ゲームバランス その他
意欲的 独自色強し 変身ヒーロー? ややシンプル 終盤までは良好 アニメムービー有り





・ゲーム概要

 PSP初期に発売されたシミュレーションRPG。
 最大の特徴はタイトル通りジャンヌ・ダルクを描いたゲームであることだが、その内容は史実よりも創作に寄った、「if」の物語として繰り広げられている。
 システム面についてはステージ攻略型という戦闘中心の内容であり、攻撃の支援システム「バーニングサイト」、防御の支援システム「コネクションガード」、そして一発逆転要素の「変身」、と意欲的にユニークなシステムを取り入れた一本だ。
 また物語の随所ではアニメムービーが流れるなど、魅力に富んだ一本であるようなのだが果たして・・・?


・「ジャンヌ・ダルク」について

 蛇足だとは思うが、先ずは本作のモデルとなった「ジャンヌ・ダルク(1412〜1431)」について軽くおさらいしてみたい。
 フランスの王位継承問題をきっかけとしてイングランド王国派とフランス王国派が争った「百年戦争(1337〜1453)」は、度重なる攻勢によってイングランドの圧倒的な優位にあった。
 フランスはと言えば反撃もままならす国土を踏み荒らされる一方で、フランスの王位もまたシャルル6世妃イザボーによってイングランド王ヘンリー5世へ、そしてその息子ヘンリー6世へと譲られる有様であった。
 イングランドへの抵抗どころか国王不在のフランス内で争いが繰り広げられる中、イングランドはフランス中心部へと進攻をかけるための拠点オルレアンを包囲。フランスの滅亡は時間の問題となっていた。
 そんな絶望的な状況下にあるフランスへ反撃の機会をもたらしたのが、一人の村娘ジャンヌ・ダルクであった。

 たびたび戦火にさらされる辺境の村ドンレミで生まれ育ったジャンヌ・ダルクはある時「オルレアンを解放し、王太子シャルル7世をフランスの王位に就けよ」という神の声を聞き、それを実行することを決心したのである。
 当然、最初は相手にもされなかったジャンヌであったがフランスの戦局を予言したことで関心を得、王族の援助によってオルレアン派兵軍への参加を認められた。
 一方でジャンヌが聞いたとされる「神の声」の正当性も審議され、シャルル7世自らがそれを認めたことで派兵軍の士気は大いに高まったという。
 またこの頃に後の片腕となる貴族ジル・ド・レと出会い、忠誠を誓われていることからもその存在感がうかがえるだろうか。
 さて戦闘におけるジャンヌは男装して騎士の軍装を身に付け、最前線で旗手として兵士たちを率いたらしい。
 手痛い反撃の失敗から消極的な作戦が中心となっていたオルレアン開放について一転して攻勢に出ることを提案し、サン・ルー要塞、ル・ブラン要塞、と見事に勝利を収めて見せた。
 根強く慎重論があり、攻撃に自制を求める声も有ったものの、ジャンヌはそのことごとくを無視して攻勢を続け、遂にはオルレアンの開放に成功したのである。
 すでに英雄として恥じない活躍を見せていたジャンヌであるが、さらにイングランドの占領下にあるランスにてシャルル7世の戴冠式を行うことを提案。無謀とさえ言える快進撃はいっそう続くこととなる。
 結果、シャルル7世は無事戴冠式を迎え正式にフランス王に即位。ジャンヌの聞いた「神の声」は無事果たされることとなった。

 しかし、その次の目標としたパリ解放からジャンヌの快進撃は止まることとなる。
 シャルル7世がイングランド王国派であるブルゴーニュ公国との和平交渉を優先したことによってかえってパリの守りが厚くなり、改めて行われた解放作戦もジャンヌの負傷を機に撤退命令が下ったのである。
 そして時を開け翌年。コンピエーニュ包囲戦でジャンヌに決定的な敗北が訪れることとなる。
 戦況の不利を見て撤退を指揮したジャンヌは自らしんがりを務め、奮闘むなしくブルゴーニュ公国の捕虜となってしまったのである。
 というのにシャルル7世はブルゴーニュ公国に身代金を払おうとせず、祖国に見捨てられたジャンヌは宿敵であるイングランドの手に落ちることとなる。
 その後「魔女」の名を着せて処刑したいイングランドによる異端審問をことごとく跳ね除け聖女としての姿を貫いたジャンヌであったが、獄中での男装を理由に処刑が決行。大衆の前で火あぶりにかけられ19年の生涯を閉じた。
 またジャンヌの片腕として数々の戦いを共にしたジル・ド・レもこの処刑を期に精神に異常をきたし、その後の生涯を恐るべき猟奇殺人者として送ることとなる。
 が、皮肉なことにその後シャルル7世はブルゴーニュ公国との関係を回復。
 イングランドへの反撃を成功させ、遂には領土の大半を取り戻し百年戦争は終結されたのであった。

 百年戦争の終結後はジャンヌの異端審問を無効とする裁判が行われ、殉教から489年後の1920年には聖人として認定されるに至った。
 またその生涯は「聖女」として人々に感銘を与え、創作や象徴の題材として根強い人気を得ている。
 絵画や戯曲・・・は置いておいて、日本国内のゲームでも「ワールドヒーローズ」シリーズの「ジャンヌ」、「遊戯王 デュエルモンスターズ」の「聖女ジャンヌ」、といった形でその人気をうかがうことが出来るだろうか。
 そして本作「ジャンヌ・ダルク」もまた、そんな創作物の一つであるわけである。


・「if」の物語

 あるわけだが・・・。

 if「聖女ジャンヌ・ダルクのもうひとつの戦記譚――」

 遠い昔、死神戦争と呼ばれる長い戦争があった。
 強大な闇の力を持つ魔王率いる死神たちが、
 多くの魔物を率いて人間界を侵略しようとしていた。
 人間たちは全ての戦力を注ぎ、
 長い攻防を繰り広げた。
 戦いに選ばれし5人の勇者は、
 邪悪な力を封じるための5つの腕輪を作り、
 その力を用いて、ついに魔王と死神を
 聖なる宝珠の中に封じ込めたのだった。

 時は流れて15世紀初め、
 フランスとイギリスの間では領地を巡る争いが続いていた。

 フランスの小さな村・ドンレミ村は楽しい祭りを催していた最中、
 見たことも無い魔物の襲撃にあう。
 偶然にもその時「魔物を倒せ」という天の声を聞いた
 村の少女・ジャンヌは、剣を取り、魔物たちを
 撃破する。

 その右腕には、かつての死神戦争で
 勇者たちが用いたものと良く似た聖なる腕輪がはめられていた。

 天の声に導かれ、ジャンヌはフランスを救うべく
 幼なじみのリアン、そして元傭兵・ロジェと共に
 シャルル王太子の住むシノン城へ向かう。

 母国を救うため、長い戦いの旅に出るジャンヌたちを
 待ち受ける運命とは……。

 (説明書より抜粋)


 ・・・なんというか、原型がほとんど残っていない
 「固有名詞を入れ替えればオリジナルストーリーとして通るんじゃないか?
 などという疑問を抱きつつゲームを始めてみると、さてその最大の突っ込みどころは死神でも魔王でもなく、「5人の勇者」という所にあることに気付く。

 ゲーム序盤、村はずれの教会で生き倒れの兵士を見つけたジャンヌは彼の荷物から「腕輪」を継承する。
 と、ほぼ時を同じくして村にはイギリス軍の率いる魔物が現れ、平和な村は一変して惨劇の場と化していた。
 これを目の当たりにして愕然とするジャンヌの頭に「天の声」が響き、その導きによって腕輪を頭上にかざすと・・・
 腕輪から光のフープが現れ、ジャンヌの全身を包んだかと思うと徐々に鎧へと変化、光が散った後には「聖なる鎧」にドレスアップしたジャンヌの姿が!
 変身したジャンヌは群がる魔物をばったばったとなぎ倒し、魔物の指揮官も一閃。
 夜明けにはイギリスへの復讐を誓って髪を切り落とし、廃墟となった村を発つのであった。

 ・・・なお、この変身シーンではバンクさながらのアニメムービーが流れることとなる。
 ああ、5人の勇者ってそういう・・・。

 その後貴族ジル・ド・レ、修道士リシャール、といった変身ヒーロー 仲間たちと出会い、力を合わせて「魔王」率いるイギリス軍を倒すストーリーはジャンヌ・ダルクというか、何と言うか。
 オルレアン解放などジャンヌ・ダルクとしてのあらすじを押さえてはいる物の、その強烈な世界観には違和感を感じずにいられないだろう。
 また少々ネタばらしになるのだが、「if」というテーマを掲げている割に本作のストーリーに分岐らしい分岐は存在しない。
 どうしようとも「火あぶり」という悲劇的な場面を迎えねばならず、この点で本作のストーリーはあまり評価したくないところである。
 一応その後も物語が続きハッピーエンドとしてまとめられているが・・・史実としての土台部分を創作し、フィクションとして創作して欲しい部分をそのままにした構成はなんともやるせない。


・変身システム

 さて、ではストーリー内でも重要な位置を占める「変身」から本作のシステムを見て行くことにしよう。
 変身はジャンヌを始め、「腕輪」を持つ重要キャラクターが選択可能な特殊コマンドである。
 その概要はターンの経過によって貯まるSPを消費して変身し、一定ターンステータスアップと特殊スキルの恩恵を受けられるものだ。
 効果に個人差こそあれ、その最たる特徴は「敵を撃破した場合再行動可能」という強力スキル「神獣」の存在にあるだろうか。
 プレイヤーごとにターンを迎えるフェイズ制を採用している本作において、同フェイズ内で複数回行動を可能にするこのスキルはまさに英雄的な活躍を可能としてくれる。
 例えばターンの始めに瀕死の敵が2、3体いる場合。
 普通であれば味方それぞれがトドメを刺してターンを終える所であるが、「変身」したユニットが1人いればトドメを刺す度に再行動して敵を殲滅し、さらに味方は行動可能のままという非常に有利な状況を作り出すことが出来る。
 逆に言えば本作においては攻撃を集中させて着実に片づけて行くほかに、あえて攻撃を分散させて一網打尽にするという戦法も有効であるわけだ。
 ここぞという場面で変身し敵を次々になぎ倒す様はなんとも痛快で、本作のシステム面における大きな魅力となっている。


・戦闘システム

 また、これを応援する攻撃システムとして「バーニングサイト」と言う物がある。
 具体的には敵へ攻撃した際に反対側のマスへ攻撃力を上昇させる火の粉「バーニングサイト」が発生し、この位置からの攻撃にボーナスを加えるという物。
 端的に言えば、はさみ撃ちするほどにダメージが上昇すると言ったところだろうか。
 とはいえそれだけに留まらず、バーニングサイトからの攻撃で発生したバーニングサイトにはさらなるボーナスが加わり、「連鎖」さながらに威力が上昇してゆくという側面もある。
 また味方がいるマスに直接バーニングサイトが発生した場合はボーナス状態を維持したまま移動出来、より複雑な連鎖を狙えるようになる。
 攻撃力アップによって敵を倒しやすくなり、敵を倒すだけ手数が増え、手数が増えるだけバーニングサイトが生じ・・・と先の「変身」との相性が絶妙であり、なんとも心憎い。
 ただ敵の防御力が高くダメージを与えられなかった場合、運が悪く回避された場合、にはバーニングサイトが発生せず、この点が少々残念ではあるのだが。

 ところで、そうして一人で敵陣深くまで斬り込んで行けば当然孤立してしまう。防御システムの「コネクションガード」の恩恵も受けられないだろう。
 「コネクションガード」とは、隣接する味方の数だけ防御力が上がるというシステム。
 攻撃時に「反撃」を受ける危険性のある本作では可能な限り利用したいものだが、「バーニングサイト」との併用はなかなかに難しい。
 足並みをそろえて進軍している場合はバーニングサイトが味方から離れた位置に発生し、味方の近くにバーニングサイトを発生させようとすると孤立した状態で反撃を受ける、と言った具合だ。
 それでもこの2つを同時に活用したい場合は、武器の「射程」や「スキル」の存在を頭に入れて隊形を組むことが重要だろうか。
 例えば射程2マスの「槍」であれば敵の反撃を受けない位置からバーニングサイトを発生させることが出来、また敵の隣が空くため連鎖を狙いやすい。
 射程1マスの「杖」は打撃にこそ向かないが連鎖を積んだバーニングサイトから強力な魔法を放て、反撃を受けることが無い、といった具合だ。
 キャラクターによって武器が固定であるのが残念なのだが、主人公ジャンヌは基本的な「剣」、相棒ジルは補助に向く「槍」、修道士リシャールは魔法使いとして「杖」、を使用するのでそれぞれ役割は明確に感じられるだろう。
 本作ではこういった位置関係や隊形を重要な要素として設定することで、ジャンヌ・ダルクの「指揮官」としての活躍を表現しているのかもしれない。


・ゲームボリューム

 また、本作はキャラクターの能力をカスタマイズする「スキルストーン」の合成も売りの一つとしている。
 ・・・まぁ、ステージごとに属性のカスタマイズを設定し直さなければならない、スキル数の多さに対して合成パターンが圧倒的に少ない、など粗さが否めないのだが。
 ともあれスキルストーンの収集の場として、また合成したスキルストーンの活躍の場としてストーリーの進行に影響しない「フリーバトル」や「コロッセアム」といったステージも用意されている。
 さらにゲームクリア後にはラスボス以上の強さを持つ隠しボスに挑戦できるようになるなど、遊びごたえについてはなかなかの物があると言えるだろうか。
 まぁ、ラスボスの能力も十分えげつないのだが。
 ちなみに、ゲーム中に流れるアニメムービーもオプションから自由に閲覧できるようになるので安心である。


・まとめ

 システム面のみならず、シナリオ面でも独創性の目立つ本作。
 結論から言うとジャンヌ・ダルクである必要性がほとんど感じられないのだが、シミュレーションRPGとしての面白味は確かなものが感じられるだろう。
 ストーリーにこだわらないという前提で、シミュレーションRPG好きや変身ヒーローファンにオススメしたい一本である。





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