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天地てんちもん


プラットフォームプレイステーションポータブル
開発クライマックス
発売ソニー・コンピューターエンターテイメント
発売年月日2005年 7月
ジャンルアクションRPG
プレイ人数1〜2人 (通信対戦・交換可能)
セーブデータ1ファイル448KB


システム シナリオ グラフィック サウンド ゲームバランス その他
爽快感に欠ける やや強引 素朴 地味 気功術ゲー パッケージ詐欺注意?





・ゲーム概要

 PSP初期に発売されたアクションRPG。
 五行思想を基とする古代中国風の世界観を舞台にし、短い攻撃をつなぎ合わせて連続技を組み立てる「武芸録」システムの爽快感と戦術性を突き詰めたという一本。
 武芸録の作成に必要な攻撃は「剣譜」というアイテムの形で入手してゆくため、トレーディングカードのような側面を持つことも特徴的である。
 その他物語についてもフルボイスを採用するなど意欲的な姿勢がそこかしこに見られるのだが、実際の内容は果たして・・・?

 ちなみに余談であるが、本作の物語はオリジナルのものである。
 「天地を喰らう」や「修羅の門」とは一切関係無いのであしからず。


・武芸録

 先ず、このゲーム最大の魅力と言えば「武芸録」システムだろう。
 これは「剣譜」として入手する短い攻撃をつなぎ合わせて連続技を作成するシステムで、ワンボタンで攻撃が続く爽快感、剣譜の並びによって威力が変動する戦術性、を実現している。
 例えば、大きく横に薙ぐ「青龍4式」、跳び込みつつ突きを放つ「朱雀2式」、背中越しに突きを繰り出す「玄武5式」、という剣譜がある。
 これらは単体では威力が低く、攻撃の後に硬直があるものの、「武芸録」に並べることで跳び込みから左右に突きを放ち横薙ぎで締める・・・といった連続技として繰り出せるようになるのである。
 イメージとしては剣譜が動画で、武芸録がその再生リストだと思うと分かりやすいだろうか。
 特に蹴り技を得意とする玄武の剣譜、闘気をまとった範囲攻撃を得意とする麒麟の剣譜、は個性的なアクションを持ち、これらから蹴りオンリーのコンボや敵集団に飛び込んでの回転斬り連発・・・といった連続技を想像する楽しみは本作独特の魅力として映ることだろう。
 ・・・が。
 ゲーム中に手に入る武芸録の多くはあらかじめ剣譜の順番と種類が定められた「武門武芸録」となっており、自由に内容を組みかえられる「自由録」の入手は少々待たされることとなる。
 そのうえで剣譜の入手方法はほぼ敵のドロップによるランダム入手となっているので、せっかく入手した剣譜が使えない、あるいは剣譜が足りずに連続攻撃が成り立たないといった状況が発生しうるのだ。
 このもどかしさは期待感をあおるより不満感を膨らませるものであり、自由録の入手タイミングや剣譜の入手手段についてはもう少しハードルを下げても良かったのでは・・・と思えてならない。


・剣譜

 さて、また剣譜には五行思想からなる属性の概念がある。
 五行思想とは古代中国に端を発する「この世の万物は火・水・土・木・金からなる」という考え方で、それぞれの強弱関係「相克」、それぞれの循環関係「相生」、という概念を持つものだ。
 本作ではそれぞれに対応する神獣にならい青龍の剣譜は木属性、白虎の剣譜は金属性、と属性が割り振られており、これが相手の弱点や連続技の威力を左右するのである。
 先ほどの連続技であれば「水は木を生み、木は火を生む」の概念にのっとって振り向き突き→横薙ぎ→跳び込み突きと並べることで後の技の威力が上昇してゆくわけだ。
 また同じ属性の攻撃を連発しても次の一撃の威力を上昇させる効果があるので、扱いやすい技の連打から締めの一撃に繋げるといった組み合わせも有効である。
 こういった法則を頭に入れつつ、扱いやすく強力な連続技を組み立てて行くのが武芸録の「戦術性」に当たる部分であるわけだ。
 ・・・が。
 残念ながら本作の敵キャラクターはこの威力アップを前提にしたのか、基本のザコでさえ連続技1セットに耐えきれるほどの耐久力を与えられてしまっている。
 一方の連続技は相生の仕様上後半ほど威力が伸びるため、ザコ戦では毎回連続技を最後まで出しきらねばならない有様なのである。
 武器の強化という救済要素も有るものの・・・爽快感を生むはずの連続技がボタン連打の手間だけを増やす形となっているあたり、この威力アップは余分な要素であったと思えなくもない。
 また相生を考慮していない連続技はどうしても威力が厳しくなるため、本来魅力であるはずの自由度を削いでいると言う点でも問題だろうか。
 先述の「武門武芸録」は大半が同属性で組まれたものであるため全くと言っていいほど役に立たない始末であるし。

 また武芸録とは別に、一定時間気を練る(ゲージ溜め)ことで使用できる「気功術」という攻撃の存在も問題である。
 というのも気功術は全方位攻撃かつザコなら即死の超威力、出が早いうえ使用中は時間停止し連続技にも組み込めるというぶっ壊れた性能となっているのだ。
 シューティングゲームで言う「ボム」のような存在であるわけだが、事前にゲージさえ溜めておけばノーコストで何度でも使えるという点は異常と言うほかない。
 さらに気功術は使用回数によって成長するなど積極的な使用を促されており、プレイヤーに連続技をさせたいのかボムぶっぱをさせたいのかさっぱりわからない有様となっているのである。


・ストーリー

 物語の舞台は武芸者たちの活躍する大陸、「央卦(おうか)」。
 東西南北と中央にそびえる「門」から流れる「気」によって豊かさを得ている央卦には、それぞれの地に剣を扱う武芸者の集団「武門」が存在していた。
 大陸東方に在り木気を司る「東方青龍門」、
 大陸北方に在り水気を司る「北方玄武門」、
 大陸西方に在り金気を司る「西方白虎門」、
 大陸南方に在り火気を司る「南方朱雀門」、
 大陸中央に在り土気を司る「中央麒麟門」、
 の5つである。
 部門ごとに規模や思想は異なるものの、それぞれの調和によって央卦の平和は保たれていた。

 一方、央卦のはるか西方には「西馬(セーマ)」という異なる文明を持つ大陸があった。
 300年前に「異形の武臣」を引き連れて進攻し、央卦の5部門と後に「馬央大戦」と呼ばれる激しい戦いを繰り広げた西馬であるが、これを退けられた後は表立った動きも無く、大戦によって央卦にもたらされた技術のいくつかは人々の暮らしをさらに豊かな物にしていた。
 また西馬から訪れたいくばかの人々は央卦に根差し、央卦の地の一部となって行った。

 時は流れ、現在。
 平和なはずの央卦の東方で、東方青龍門の門主と門弟が一人を除いて壊滅させられるという惨事が起きていた。
 かつて部門を破門された武芸者シンブは、辛うじて生き残った門弟スイリンからこの事実を聞き、葛藤の末に自らの歩む道を決意する。
 スイリンを新門主とし、自らは一武芸者として可能な限りこれを支える。
 父の形見「吟鳴剣」を手に、伝説の剣技「三盤剣」と奪われた門主の証「青龍宝剣」を探してシンブは旅に発つ。
 その裏側で暗躍する、央卦と西馬を巡る陰謀へ波紋を投げかけるように・・・


 ・・・といったところ。
 なかなか複雑な物語が繰り広げられるように思えるが、実際のところ武門1つにつき登場する町は1つ、おまけ程度として各地に港があるくらいで世界観としては少々狭く感じられてならない。
 中盤以降は中央麒麟門を除く4武門を往復することとなるので水増し感が強く、冒険する楽しみなどは薄いと言えるだろうか。
 また物語の内容自体も少々強引で、スイリンが序盤で発する「あたし、門主様の仇が討ちたい。ううん、絶対に討つ。たとえあたしが…………正気じゃなくなっても…」というセリフなどは、伏線としても不自然すぎる気がしてならない。
 その伏線の意味、黒幕の目的、「三盤剣」の正体、などなど謎や秘密の大半は事前に明かされている情報が少なく、かつ急展開を迎えることが多いため消化不良の感がぬぐえない状態となっているのである。


・キャラクター

 本作の主なイベントはフルボイスとなっており、その声優も非常に豪華な面々となっている。
 ここではそのうちから主なキャラクターを取り上げてみたい。

 ・シンブ (CV:遠近孝一)
 主人公。父に「央卦」の武芸者を、母に西方の大陸「西馬」の人を持つ武芸者の青年。
 両親とは幼いころに死に別れたとされ、その後は「竹安」の村でセイダツに引き取られ東方青龍門に入門した。
 が、見てはならないとされていた「秘伝碑」を盗み読んでしまったことであえなく破門。
 されど剣の道をあきらめることはできず、村の男として旅人や商人の護衛という仕事に就き独自に武芸を磨いていた。
 やがてスイリンとの出会いによって父の形見「吟鳴剣」を受け継ぎ、伝説の剣技「三盤剣」と奪われた「青龍宝剣」探索の旅に出ることとなる。
 誠実で正義感が強く礼節のある好青年だが、こと剣術に関しては少々頑固な面も見られるようだ。
 ちなみに、パッケージのCGとゲーム中のポリゴンではだいぶ顔つきが異なる。

 ・スイリン (CV:中原舞)
 ヒロイン。何者かによって壊滅させられた東方青龍門の最後の生き残りであり、部門再興のためにとシンブを頼りに現れた。
 本人はシンブを門主に据えようと思っていたようだが、シンブが破門された身であることを理由にこれを断ったことから自身が門主に就くことを余儀なくされてしまう。
 「ある理由」から強い抵抗を感じているようなのだが、そこにはスイリンの未熟さが見え隠れするようだ。

 ・セイダツ (CV:納谷六郎)
 幼くして両親と死に別れたシンブを引き取り育てていた人物。
 竹安で学習塾の先生をしており武芸についてはからっきしのはずだが、シンブの父との関係など多くの謎を抱えているようだ。

 ・エイゲン (CV:野田順子)
 一子相伝の北方玄武門の門弟であり、修行の一環として東方青龍門を訪れた少年。
 壊滅状態にあった東方青龍門の門主、門弟らを弔った後にシンブと出会い、その成長を見守られて行くこととなる。

 ・ルーヤン、リーイン (ともにCV:久川綾)
 シンブが旅の途中で出会った不思議な双子の姉妹。
 落ち着きのある姉ルーヤンと行動的な妹のリーインとの2人で旅を続けており、見かけによらず剣の腕は相当のものであるらしい。
 シンブの持つ「吟鳴剣」、さらに言えばシンブの父との関係を始めあまたの謎を秘めているようだ。

 ・ゲンラ (CV:寺杣昌紀)
 エイゲンの前に北方玄武門に入門していた男。
 下品で強欲、自己中心的な性格をしており、北方玄武門の厳格な教えに反発を感じて出奔。
 その後は中央麒麟門に身を置く有様で、今度は襲撃者として北方玄武門へ姿を現すこととなる。

 ・エンラン (CV:浅川悠)
 南方朱雀門を襲撃した中央麒麟門の女剣士。
 西方の大陸「西馬」の血を引いていることから虐げられた過去を持つらしく、西馬への差別のない世界を目指してあえて修羅の道に身を置いている。
 しかしシンブが同様に西馬の血を引く人間だと知り、その心には複雑な思いが芽生えだしている。


・まとめ

 様々に魅力となる要素を持つものの、別の要素でそれを潰してしまっている点の目立つ本作。
 特に最大の魅力となるべき「武芸録」システムについて著しく、相生の威力上昇によって自由度とゲームバランスを損なっているほかそもそも無限ボムの存在で通常攻撃の存在意義が希薄というあたりは前衛的な感すらある。
 とはいえ、それでもなお自分で連続技を組み立てるというシステムが独特であるのは確かであるが。
 多少の手間をおしてもそこに強い魅力を感じる人にならば、一応はオススメ出来る一本である。




・関連作品

・天地の門2 武双伝続編。本作の鍵である「西馬」を舞台にした内容で、システム回りは武芸録をベースにしつつ多数の新要素が取り入れられている。
双界儀プレイステーションで発売された五行思想を基としたアクションRPG。
Wikipediaの該当項目が相当えらいことになっている。


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