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火星物語かせいものがたり


プラットフォームプレイステーション
開発アスキー
発売アスキー
発売年月日1998年 10月
ジャンルRPG
プレイ人数1人
セーブデータ1つ1ブロック、5ファイルまで


システム シナリオ グラフィック サウンド ゲームバランス その他
「物語」的 ハートフル アニメ的で活き活き ボイス豊富 安定的 原作あり





・ゲーム概要

 「広井王子のマルチ天国」内で放映された同氏脚本のラジオドラマ「火星物語」のエピソードを編集し、3Dでゲーム化したRPG。
 「週刊ファミ通」内でも「広井王子のマル天通信」が連載されていた関係から頻繁に記事として取り上げられており、当時における知名度や期待感は相当に高まっていたものと思われる。
 ・・・とはいえ「FFVIII」、「DQVII」、「ポケモン金・銀」、とビッグタイトルの開発が目白押しとなっていた当時においては埋没してしまった感が否めず、発売後は今一つ目立たない位置に落ち着いてしまったのだが。

 肝心の内容はラジオドラマを原作としているだけあって「物語」ということを強く意識した構成が取られており、プレイする楽しみと共に観る楽しみが感じられる一本である。
 キャッチコピーである「家族にやさしいRPG」という一文は、そういった誰かと共に楽しめる側面を特に取り上げたものなのかもしれない。


・あらすじ

 ロマンシア大陸の辺境の村「アロマ村」に住む少年A。
 彼と、親友の少年Bは間もなく12歳の誕生日を迎え、晴れて自分の名前と職業を授かる「命名の儀」を受けられることとなっている。
 その舞台として大陸中央の都市「カンガリアン」を目指し旅に出た二人は、テロリストとの遭遇など多少のトラブルに巻き込まれながらもどうにか目的地へとたどり着き、同様に命名の儀を待つ少女Yと運命の出会いを果たした。
 高度に機械化され、管理された現代の火星。
 アンサー王、クエス王女、といった英雄たちによって紡がれてきた歴史は今や色あせ、人々の生活には歪な影が落ちていた。
 少年Aがそのことを感じ始めたころ・・・少女Yの持つ「チェーンウォッチ」が輝き出し、少年Aは英雄と火星に宿る「風」たちが活躍する過去の世界へと旅立つのだった。


 ・・・と、おおまかな導入部はこういったところだろうか。
 少年A、後の「フォボス」らが活躍する物語は原作の第3部に当たり、これをベースに第1部のアンサー、第2部のクエスを織り込んだ物がゲーム版の「火星物語」として語られる。
 原作とはまた別のオリジナル色を持ち、かつて別々の物語であったことを感じさせないようまとめられた内容だ。
 原作ファンにはクロスオーバー物としての驚きを、新規プレイヤーには壮大な物語としての感動を、それぞれ感じさせてくれる構成である。


・ゲームの流れ

 「物語」を意識した本作は、ゲームとしての流れも独創的に作られている。
 例えばストーリーが「第○話」の形式で区切られているわけだが・・・。
 それに加え作中の主要イベントの多くがボイス付きの寸劇によって語られていること、作中の戦闘がほぼ固定エンカウントであること、移動する場所が自動的に決定されること、といった要素から各話のプレイ時間はほぼ1時間弱に収まるよう整えられているのである。
 なるほどテレビ番組にしろラジオ番組にしろ放送時間と言うものが定められている。本作はその点を再現し、一定のゲームテンポを作り出しているわけだ。
 キャラクター達のやり取りを中心として進行し、進行に沿って敵との戦闘をこなしてゆく、という流れはまさにアニメ番組の様であり、途切れることなく物語を楽しめる構成であると言える。
 また各話の始めにはこれまでのあらすじとタイトルコールが、各話の終わりには登場したキャラクターたちによる楽屋トーク兼次回予告が、それぞれ挿入されるというユニークな演出もある。
 これらは特に、先を期待しながらプレイする際の楽しみとなってくれることだろう。

 ・・・反面、本作の進行は移動先一つとっても一本道であり、自由度は非常に低い。
 どれほどかといえば、自由にショップや回復施設へ立ち寄れないうえ、セーブ可能なポイントさえ用意されていないという有様。
 イベントスキップもできず、一度プレイしたら1話終わるまでコントローラーを握り続けなければならない、というのは正直厳しい。
 細かい点を挙げればザコとの戦闘を大量にこなす「狩り」、物語の進行とは関係ない「サブダンジョン」、といった要素が無いのもRPGらしからぬところだろう。
 もっとも、この点についてはそれらを必要としないバランスであるとも取れるし、「狩り」の場が全く無いわけでもないのだが。

 またさらにフォローしておくと、本作では戦闘で全滅しても即ゲームオーバーとなることはない。
 全滅した場合でも「リトライ玉」というアイテムを消費して、あるいは「赤玉」というペナルティを負って戦闘に再挑戦することが出来るのである。
 「リトライ玉」は各地のショップや宝箱から入手可能であり、最も早いものでは少年Aの自宅前にて入手することが出来る。
 この入手の早さには、全滅しても大丈夫、といったメッセージが込められているのだろう。
 一方の「赤玉」は所有しているとショップを利用できないという制限が発生し、リトライ玉の4倍の価格で処分せねばならなくなる。
 単純に損なので、リトライ玉のストックは切らさないように進めて行きたい。

 ・・・と、本作は戦闘でつまづいてもゲームが終わることが無く、物語を最後まで遊ぶことが出来る設計が採られているわけである。
 ショップやセーブの仕様が不便であることは間違いないが、一話あたりのプレイ時間については安定して守られているので安心して欲しい。


・アドリブバトル

 さて何度か「戦闘」という単語を出したが、本作は戦闘についても「アドリブバトル」という特殊な形式が採られている。
 「アドリブ」というのは「移動用のマップがそのまま戦闘用のマップとして機能する」という即興性と、「マップの中に存在するオブジェを自由に利用できる」という自由性とを指した概念だ。
 元々は原作「火星物語」が、大まかなあらすじのみを台本として渡し、後は声優さんたちがアドリブで物語を作っていったという点に由来するシステムと言えるだろうか。
 (余談であるが、火星物語の主演声優の一人である千葉繁氏と言えばアドリブを得意とすることで有名な方であり、台本に「もう勝手にやっちゃってください」とのみ書かれていたという逸話を持つほどである。

 3Dで作成された本作のマップには机やイス、ドラム缶といったオブジェが存在している。
 キャラクターたちは戦闘の中でリアルタイムに移動や攻撃を行う傍ら、こういったオブジェに対して「なげる」または「オブジェ」というコマンドを行うことが出来るのである。
 「なげる」とは文字通り対象物を持ちあげて放り投げるコマンド。
 イスやタルといった小型のオブジェを相手にぶつけてダメージを与えられるほか、敵や味方まで投げ飛ばすことが出来、複数攻撃や移動手段としても活躍する。
 一方の「オブジェ」とはキャラクターそれぞれがオブジェを活用して攻撃するコマンド。
 大砲を用いて目標を攻撃したり、柱を倒して攻撃したり、と様々なアクションが用意されており、少年Aは机などを踏み台にジャンプ攻撃を仕掛けられる、などキャラクターによる差異も存在している。

 では具体例として、第1話の中で焼肉食べ放題を賭け店員のバジルさんと勝負するという場面を見てみよう。
 対戦相手のバジルさんは体力も攻撃力も高いかなりの強敵であり、真っ向から殴り合うだけでは苦戦は必至である。
 そこで周囲を見渡してみると、一つに焼き肉屋のイスやテーブルが目に入る。
 イスを「なげる」によってバジルさんにぶつければ、遠くから大きなダメージを与えられるわけである。
 またテーブルは「オブジェ」コマンドで踏み台にし、ジャンプ攻撃を仕掛けるという利用法が良いだろう。
 さてもう少し周囲を見渡してみると、より大きく攻撃に向きそうなオブジェが有る。焼肉用の鉄板である。
 そう、この戦闘ではバジルさんを投げて鉄板に乗せることでより大きなダメージを与えることが出来るのだ。
 ちなみに鉄板をオブジェとして利用した場合、自分が大やけどを負うこととなる。当然である
 ・・・と言った具合に、さまざまなオブジェを利用して自由に作戦を組み立てられるのが「アドリブバトル」の醍醐味なのである。
 ゲームの進行が一本道である分、バトルでは高い自由度が味わえるだろう。

 また各キャラクターは特技、あるいは魔法を習得しており、戦闘においてはこれらの活躍も重要だ。
 特にユニークなのは少年A(フォボス)の「道具」で、重い物を投げられる「グラブ」、相手を食べる「フォーク」、は色々な物に試してみたい。
 さらに「風使い」としての素質を持つキャラクターは、戦闘中に「風」によって強力な全体攻撃を繰り出すことが出来る。
 回数の制限が厳しいのだが、どの風も物語中での活躍に違わぬ大きな力で戦闘の切り札となってくれるはずである。


・スゴロク

 ところで、本作中には豊富にミニゲームが存在している。
 奪ったパトカーで高速道路を逃走する「PIPEWAY」、タイミングを見てブランコを跳び移ってゆく「HYPERあすれちっく」などがそうで、ストーリー中で攻略した後は各話の合間にいつでもリプレイが可能である。
 そしてその他に、2話に1回強程度のペースで発生する「スゴロク」もまたミニゲームの一つと言えるだろう。

 「スゴロク」と言えば、サイコロやルーレットを回して出た目だけ進み、止まったマスの効果を受けながらゴールを目指すというおなじみのゲームだ。
 本作ではこれを遠隔地へと移動する際のイベントとして発生させ、起伏に富んだ旅を表現しているわけである。
 特殊マスでは「2マス戻る」やアイテムがもらえる「宝箱」、敵キャラとの「戦闘」、といったものが用意されており、その道中がどんなものになるかはルーレット次第。
 運よく3つの「スタンプ」マスを集めてゴールできれば非売品の強力なアクセサリーがプレゼントされるなどするので、期待を抱きながらルーレットを回していきたい。

 ・・・と、言ったものの
 本編中でランダムエンカウントの無い本作においてはスゴロクにおける戦闘、すなわち「狩り」の機会は魅力的なものでもある。
 一話中の戦闘回数が限られる本作においては一戦闘毎の報酬が大きく、特に資金に関しては序盤から5ケタ単位のお金が動かされるインフレ状態
 この状態で狩りなんてものが加われば気分はまさにどうだ明るくなつたろうである。
 作中では「敵に追い付かれるな!」や「制限ターンまでにゴールせよ!」といった特殊ルールが適用される場合もあり、これらではあえて失敗することでスゴロクを最初からやり直すことが出来る。
 つまり気の済むまで資金や経験値を得ることが可能なのである。
 さらには本作のルーレットはある簡単な方法によって出目を操作することが出来るので、これを解禁すればスタンプボーナスもエネミーとの戦闘も思うままに得ることが出来るだろう。

 ・・・当然、こういった狩り行為の結果はプレイ時間の肥大化と著しい難易度の低下でしかないのだが。
 そもそもが固定エンカウント前提に整えられたゲームバランスであるし、戦略の工夫や「風」の活用があれば「狩り」の必要性はまず感じられないことだろう。


・キャラクター

 本作にはいわゆるハイポリゴンのムービーシーンというものが存在せず、作中のイベントは全てローポリゴンのキャラクターによって演じられている。
 造形の粗さこそ否めないが、活き活きとした動きと豊かな表情がそれを感じさせず、むしろアニメ的な印象と全編にわたる統一感を与えてくれている。
 これは武蔵伝などでも採られていた手法であるが、つくづく心憎い物である。

 ・少年A(フォボス) (CV:なし)
 12歳の誕生日を前にし、カンガリアンへ命名の儀を受けに旅立つ少年。
 手先が器用で数学が得意、機械いじりを趣味としているが自作した機械はことごとく爆発するのがたまにキズ。
 戦闘でも様々な「道具」を用いて戦うほか踏み台を用いてのジャンプ攻撃も得意とする。
 また風使いとしての素質も有り、最終的に全ての「風」を仲間にする最初の人物となる。

 ・少年B(アービン) (CV:古川登志夫)
 少年Aの幼なじみにして大親友。口が達者なお調子者だが、その裏で物事を冷静に判断できる策士肌な一面も持つ。
 アロマ村の長老のネーミングセンス(あろまえもん、あろまんのすけ)に反発を抱き、少年Aと共にカンガリアンで命名の儀を受けるべく旅立つ。
 戦闘では直接参加しないものの、「オブジェ」コマンドで少年Aのジャンプ攻撃を手伝ってくれる。

 ・少女Y(セイラ) (CV:豊口めぐみ)
 少年Aらと同様に命名の儀を受けに来た少女。
 手先は不器用だが料理は得意、正義感が強く「疾風のクエス」へのあこがれは少々マニアが入った一面も。
 たまたま少年Aと同室になったことから一緒にカンガリアン見物へと繰り出し、その後も行動を共にしてゆくこととなる。
 ゲームオリジナルキャラクターであり、次回予告を兼ねた幕間では司会役を務め、本編中でも宝物の「チェーンウォッチ」が少年Aを過去へと導いてゆくなど語り部的な役割を持つ。
 戦闘では「魔法」を使用することができ、攻撃から回復まで広い役割をこなしてゆく。

 ・タローボー (CV:千葉繁)
 フォボスがガラクタから作りあげた戦闘用ロボット。
 言語回路に欠陥が有りしばしばオヤジギャグのような言い間違いを見せるが、計算や判断能力自体は非常に優秀。
 戦闘用だけあって様々な「兵器」を扱うことが出来、フォボスと並んで最前線で活躍する。
 また物語が進行すると・・・?

 ・ランディ (CV:広井王子)
 現在のカンガリアンを覆すべく、レジスタンス組織「ブラパン党」を興した人物。
 縁あって少年Aと出会い、共に協力してゆく間柄となる。

 ・シルビー (CV:横山智佐)
 現在のカンガリアンへAチップを輸出するハーネス帝国の女剣士。
 風使いを邪悪な存在として忌み嫌っており、フォボスらの宿敵として幾度となく相まみえて行くこととなる。

 ・クエス (CV:横山智佐)
 400年前、アロマ王国の王位継承者の身にありながらアショカ法王国の独裁を止めるべく立ち上がった英雄。
 「疾風のクエス」の異名を取るだけあって3種類の「風」を扱えるほか、剣に優れ「魔法」の使用も可能。
 しかし本来は争いを好まない性格であり、それが後にある決断へと繋がってゆくこととなる。
 ちなみに普段から黒の下着を愛用しており、「黒パンツのクエス」という名で知られることも・・・?

 ・サスケ (CV:千葉繁)
 400年前、クエスと共に闘った近衛隊の隊長。
 近衛隊の隊長として、またクエスの剣の師匠として、クエスの最も近いところでその戦いを支えてきた戦友である。
 クエスが心を許せる数少ない相手であるのだが・・・着替えをのぞき見るといったスケベ心は許されないらしい。
 クエスの剣の師匠であるだけあって剣に優れ「忍術」という特技を持つほか、3種類の「風」も仲間としている。

 ・アンサー (CV:横山智佐)
 600年前、誘拐されたコアラップ王女を救いだしアロマ王国を建国した英雄。
 しかしフォボスが初めて対面した彼は人懐っこく、無邪気そのものといった雰囲気の少年であった。
 フォボスのスパナ、ポチの剣に対抗してなべぶたを武器に選ぶなど戦闘能力はほとんど期待できないが・・・。

 ・ポチ (CV:千葉繁)
 600年前、アンサーの保護者として暮らしていた剣士。
 豊富な経験を持ち「剣技」の腕前は一級品、年長者として精神面もタフ・・・なのだがかなりのスケベ。
 本能的なポチと理性的なアンサーのコンビはお互いに無二の親友といった間柄である。

 ・藍色の風 (CV:水谷優子)
 火星に宿る「風」の一人。
 バレリーナの様な姿をした理知的な風であり、「氷」の力を操ることが出来る。
 はるか過去からフォボスを見守り、風使いとしての運命を導いてゆく存在である。
 余談だが風使いとその仲間たちを瞬間移動させる力(≒ルーラ)を持っており、これを自由に扱えないことが実にもどかしい。


 ・・・と、メインキャラのうち3人が千葉繁氏、3人が横山智佐女史という凄まじい状態なのだが、これは原作再現なので妥当だったりする。
 その他のキャラクターについても声優は豪華な傾向にあるのだが、ともあれここでは割愛としよう。


・まとめ

 システム、シナリオ両面で物語としての構成を突き詰めた一本。
 一話一話を期待しながら見進めるプレイ感はなんとも独特で、番組を視聴するようにじっくりと楽しんで行くことが出来る。
 イベントシーンの多さやアドリブバトルにおける作戦の広さから見る楽しみも強く、この点はまさに「家族にやさしいRPG」と言った内容だろうか。

 ただし純粋なRPGとしては物語が管理されすぎており、自発的な行動や寄り道と言った要素、すなわち「冒険」がほとんど無い点が気にかかるところである。
 セーブやアイテムの売買でさえ1話毎にしか行えず、この辺りは少々人を選ぶ要素であるかもしれない。

 しかし、それは逆に物語を途切れさせること無くプレイするための構成であるとも取れ、難易度に理不尽な影響を与えている物では、決してない。
 謎解きにしろ戦闘にしろ攻略に詰まる要素は考えづらく、丁寧にプレイすれば物語の最後まで楽しめる一本となるはずである。
 火星という異世界の現代、中世、古代、の3つの歴史をまたいで繰り広げられる不思議な物語や、ローポリゴンのキャラクター劇に惹かれる物を感じたならば、ぜひオススメしたい一本だ。
 もし触れる機会が有れば日々のスケジュールの中で無理なく遊べる時間を探し、日々少しづつ、物語の続きを心待ちにしながらプレイして欲しい。


・ワンポイント攻略

 ・残念ながら過去の話を再プレイする機能は無く、セーブデータはメモリーカード1枚に付き5つまでとなっている。
 振り返りたい場合はメモリーカードを多めに用意するか、PS3を経由して大量のバックアップを確保しよう。
 ・「ある簡単な方法」とは、ルーレットの回り始めの速度が遅いことと、ルーレットの初期位置がランダムであることを利用するもの。
 決定とキャンセルを繰り返して狙いの目が3時あたりの位置に来るまで粘れば、後は一呼吸置いてルーレットを止めるのみだ。

 ・クリア後、暗転中に「あるボタン」とやらを押すと・・・?





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