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ページ公開:2024/09/02


四八しじゅうはちかり


プラットフォームプレイステーション2
開発バンプレスト
発売バンプレスト
発売年月日2007年 11月
ジャンルノベル
プレイ人数1人
セーブデータ1つ62.8kB、10ファイルまで


システム シナリオ グラフィック サウンド ゲームバランス その他
必要性に乏しい クォリティが安定せず グロ控えめ 妙にアニメ声 ランダム要素が苦痛 伝説のクソゲーの一つ





・ゲーム概要

 最初にまとめを言えば、本作は「完成度の低さ」で伝説となったクソゲーである。

 作品の企画・原案は飯島多紀哉氏、スーパーファミコンの時代に「学校であった怖い話」を制作しその名前が知られるようになった著名なゲームクリエイターである。
 同作はまだ子供のものという意識が強かったスーファミにして「6人の高校生が学校を舞台にした怖い話を語る」という内容を描き、相応に対象年齢の高い暴力的で陰鬱な、しかしてパラノーマルで惹き込まれる話を展開して大いに注目を集めたものだ。
 これにはスーパーファミコンの画質が想像力を掻き立てたという背景もあると思うが、しかしてプレイステーションやパソコン向けにリメイクを繰り返してもおり、同氏のライフワークとして長年愛好されている作品となっているのである。

 ――と言う人物が、プレイステーション2という当時の最新機をプラットフォームにして「日本の47都道府県を舞台に、著名なホラー作家をゲストとして迎えながら怖い話たちを展開した新しいスタイルのゲーム」として世に出したのが本作「四八(仮)」である。
 当初は期待感から話題を集めたものの、いざ発売されると評価は一変、全く怖くないとか内容が薄いとかは序の口、恋愛シミュレーションとかルー大柴少女とかヒバゴン!?とかまったくわけのわからない話題が飛び交い、画面から白い四角形が消えなくなる不具合やセーブ中に動作不能になる不具合が報告され、公式のサポートも対応不能を連発するという混乱が巻き起こった。
 特に2ちゃんねる(当時)で新作ゲームをクソゲー認定して面白おかしく話題にする「クソゲーオブザイヤー(略称KOTY)」では、本作の発売によってスレの消費速度が3倍に伸びあっという間に据え置き機部門大賞をかっさらったとかいう

 そういうわけで世間の評価としては「クソゲー」が確定している(ファミ通除く)し、その話題性のせいでプレミアが付いてしまってもいるのだが、少々気が向いたので番外編として感想をまとめてみたいと思う。
 なお、飯島多紀哉氏はのちに本作のことを「有名ゲストを招く企画と社の意向の影響によって不本意な形で世に出てしまった」と述懐したらしく、これを名誉のために補足しておくとしよう。
 また、実体験調の話も多くあるが、もはや20年前でスマホもSNSも普及していなかった頃という時代背景も忘れずにおきたい。


・ゲームシステム

 「あなた」の手元にある一本の電話がかかる。
 いわく、厳しい抽選の結果全く新しいスタイルの新作ゲームのモニターとして「あなた」が選ばれたのだと。
 特に疑問を抱くことなくこの話を受け入れた「あなた」が手にしたゲームがそう、「四八(仮)」――。

 ゲームを起動すれば画面には日本地図が表示されており、それぞれの都道府県に「怖い話」が用意されているらしい。
 選択肢を選ぶノベルゲーム形式に、語り部の話を聞く朗読形式、中にはミニゲームもあるこれらの怖い話を読み進めてゆくと、ふとゲーム画面が「あなた」を凝視している気配がする。
 その時から、「あなた」の現実と「四八(仮)」の世界は奇妙な一致を示してゆくのであった・・・。

 ・・・というのが主なゲームの内容である。
 都道府県を舞台にした47のシナリオと、「あなた」を題材にした1つのシナリオ、合わせて「48」というのが本作のテーマなのだと言える。

 まあ、2つ以上のシナリオがある都道府県もあるので合わせて48では全くないのだが
 しかも、実際にこれらの話を読んでみると地域の特色を活かしていない陳腐でどこにでもある話であったり、地元の昔話を特に工夫せず朗読している話であったり、最悪特定の観光施設の紹介に終始して「遊びに来てね」でまとめている観光PRでしかない話であったりする。
 特に大阪と京都は舞台の無駄遣い感が半端ない。
 何を想定して都道府県を題材にしたのかわからないが、少なくともその数は数合わせに走り回る必要がある負担にしかなっていないのではないだろうか
 あるいはタイアップで観光旅行の費用くらいは出たのかもしれないが。

 一方でシナリオの中にはマルチエンドが用意されているものもあり、すべての結末に到達するとアイコンに「完」マークが付いたり都道府県の色が塗り替えられたりする。
 するとそれらをコンプリートしてやろうというのが人情だと思うが・・・。
 あいにく怪奇系ホラーとマルチエンドという物があまり相性が良くないらしく、話の「オチ」というのはえてしてそれまでの怪奇現象に納得できる理由づけを行うものであり、これがコロコロ変わるというのは要するに構成も何も行き当たりばったりの与太話を聞かされていたのだなという印象を与えてしまう。(し、結局伏線が放置されっぱなしで納得に至らないというエンドも少なくない)
 だいたい髪の長い女が出てきて主人公が行方不明になるか、気絶して気が付くと朝になっているか、頭がおかしくなって医師や警察に状況説明させるか、しておけばいいんだ上等だろ!(天下無双)
 「学校であった怖い話」の場合はプレイごとに異なる結末になるということが好意的に評価されたが、比較すると同一のシナリオを繰り返しプレイしたり、一つ一つの話が短かったり、というか単に不出来だったりといった点で悪い面が強調されてしまったゆえの対比と言うところだろうか?
 逆にサイコスリラー系の話も、結局すべて登場人物の妄想でしたに収束してしまってマルチエンドにあまり意味がないか。

 そして、マルチエンドの悪さをことさら強調しているのが「ランダム性」の存在。
 いくつかの話において、ストーリーの分岐条件にプレイヤーが任意に選択できる「選択肢」ではなく確率によってのみ作用する「ランダム」を採用しているのである。
 ここに望む結果を得るにはとにかく試行回数を増やすしかないが、それは要するにすでにオチを知っている怖い話をいつ終わるとも知れず繰り返し読み続けるしかないということを意味する。
 どう考えても面白くないし、というべきかそれ自体何の因果だと言うような呪いの類であろう。

 宮城県の「ダンボール」の回なんかは最悪で、どのオチでも正体不明の何かに襲撃されると大差ないのにエンド数は9もあり、その条件はランダムと特定条件の複合。
 ランダムだけが条件だと思っても特定条件で分岐だと思ってもドハマリする形で、どのエンドを迎えても特段面白くもないのだ。

 (ちなみに、東京都のシナリオは(主にファミ通コラボで)非常に膨大な分岐を持つのだがそのせいで到達不能のルートが出来てしまったらしくコンプ不能、公式はこれを「仕様」と言い張っている

 なお、こうしたシナリオを読み進めるには「登場人物」を管理する必要もある。
 物語に登場する人物たちは一覧に登録され、話の展開によって死亡したり発狂したりするという「状態」と、現在どの都道府県にいるかという「現在地」の概念があり、読みたい話の前提に合わせて彼らを回復させたり移動させたりする必要があるのだ。
 ・・・が、肝心のシナリオが先の通り朗読や観光PRばかりのため地元の紹介をしてそれっきりという使い捨ての登場人物が大量におり、全体で「137人」もの数に至ってしまっているのは、確実に収拾がついていない。
 一覧から必要な人物を探すのに手間がかかるというUIの不便さにしろ、各キャラクターの個性が描き切れていないことにしろ、「48」という数字に関連付けられていないことにしろ、もっと整理できたろうという気がしてならない。
 (特にやたら多いファミ通関係者)

 のわりに、妙に通りの良いアニメ声であったり一人称が自分の名前であったりと無駄に個性を主張している人物もおり、沖縄県の語り部などはエセ外国語交じりのルー大柴みたいな口調の女の子というその最たる例である。
 ホラーテラーが自ら話を茶化すなんて最悪未満の話だと思うのだが、このあたり本作がホラーを目指していたのか最初からバカゲーを目指していて目論見通りの仕上がりになったのか判断付かないところだ。

 いちおう、県をまたがって活躍するホラー雑誌の記者や心霊カメラマン、旅行好きの女子高生グループといった存在や、女性・子どもという条件で成立するイベントなどもあるので、本当にブラッシュアップされていればどうなったかは多少気になるところではあるが。
 特に、千葉県のシナリオ「学校であった怖い噂」は登録済みの登場人物たちから噂話を聞いて集めるというシナリオであり、(少々代表作を使い倒している感があるにせよ)ともすれば「四八(仮)」のひとつの集大成として構想されていたものなのだろうと思う。

 それから「契力」というシステムもある。
 話を読んだり登場人物の回復・移動を行ったりするのに消費し、話を読み終えると獲得されるというポイントで、ゲーム内では「資金のようなもの」と表現されている。
 のだが、基本的に話を読み終えると黒字になるようにできており、一度に大勢を回復させるなどの派手な動きを取らなければこれが問題となることはまずもってない。
 足りなくなったら短めの話を繰り返し読んでもいいし、特定のミニゲーム(ぶっちゃけると神奈川県)に参加してもよい、という調子なので、実のところシステムとしてあまり重要ではない。
 県のアンロックを遅らせたり登場人物の管理にいちおうの代償を求めたりする役割はあるが、ほぼフレーバー要素だ。


・大物ゲスト

 かくしてホラーゲームとして内容が薄いうえにその薄い内容でさえ蛇足が多く不条理な出来という本作なのだが、多少目を引く文句として何名かの有名ホラー作家から制作の協力を受けた、という物がある。
 噂によれば(というか飯島氏のインタビューによれば)こうしたゲスト作家陣のシナリオの作成を優先した結果実装されるはずだったオリジナルのシナリオの大部分で実装を断念してしまったらしく、「四八(仮)」の(仮)は演出というより実態なのだなと目頭が熱くなるところである。

 中でも伊藤潤二の「火葬場の町」は良い出来で、普段の作風「らしい」不気味で色気のある雰囲気を醸し出しながら複数のルートで謎の真相に迫るというマルチシナリオを取り入れつつ、達成感のある結末を確保し、作者本人や代表作の小ネタを挟んでファンサービスも忘れないという満点以上の内容であった。
 本編顔負けである。

 ただ・・・稲川淳二の「呪われた旅館」と「劇場の恐怖」は失敗したように思う。
 なんと豪華にムービー形式で稲川淳二の「語り」を披露し、その一呼吸一呼吸を損なうことなく表現しているのだが、そこに「マルチエンド」を取り入れてしまったのが痛い。
 稲川淳二と言えば実体験調の語りが特徴的だが、そこにマルチエンドを取り入れてコロコロ展開や結末が変わってしまうものだから、一気にリアリティが薄まり冷めてしまうのだ。
 さらに、ムービーをスキップ不可としてしまったためマルチエンドをコンプするには長い語りを何度も聞き直さねばならず、そのうえでランダム分岐を取り入れたもんだからいつまでそれを聞いていればいいのかわからない始末
 悪いとは思ったが、コンプまでは暇つぶしを用意しなければ耐えられない過程であった。

 それからつのだじろうの「地底霊界」は話の途中で本人の用語解説が入るシーンがあるのだが、要するに心霊関係の専門用語でゴテゴテと修飾された一般人置いてけぼりの内容であり異物感が半端でなかった。
 それ以外にも、どの分岐から読んでも伏線が欠けていて話が理解できないという妙な形でランダム分岐に対応していたり、さも選択肢が出るような場面で選択肢が出なかったり、原案のト書きをそのまま書き写したような不自然な文があったり、と全体的に作りが粗い感じでもある。
 このシナリオはファミ通コラボの「ファミ通補完計画」と同じ東京都のシナリオとして収録されているのだが、もうそれだけで独立したゲーム出しちまえよというくらい文章量のある「ファミ通補完計画」に圧迫された事情などがあったのだろうか?
 (繰り返しになるが東京都シナリオはコンプ不能の「仕様」まである)

 なお、もうひとつのファミ通コラボ兼筒井康隆コラボ回「大作家」シリーズは本気で胸糞悪かった。
 ほんの20年前だが、自分が「時代」に毒されすぎているのか、この話の倫理観ポリコレが前時代的すぎるのか・・・。
 ちなみに筒井康隆に関してはもう一つ「信州長野の名物は」という回もあるのだが、なんというか、本作最強のトラウマ回である。
 このシナリオを最初にやることになった長野県民の本作の評価が気になるところだ。


・まとめ

 以上の内容を振り返って、やはり自身の評価も大勢と変わらない。
 クソゲーの条件と言うのはいくつかあると思うが、中でも「完成度が低すぎてクソゲー」の代表例である、ということだ。

 ただしそんな中でも鹿児島県シナリオや長崎県シナリオなどは読みごたえがあったと好意的に評価したく、「学校であった怖い噂」にて垣間見えた本作の集大成の形には空想が広がるところもある。
 面倒を増やしただけの「ランダム分岐」や事実上機能していない「契力」、ホラーでも何でもない観光PR系のシナリオなど擁護のしようがない要素もあるにせよ・・・本作が本当に完成していたらどうなったのか、という希望は捨てるには惜しくもあるのだ。
 本作を先例とみなして「コレクション欲を刺激するホラー短編集」、「登場人物の入れ替えで内容が変化するマルチシナリオ」、といったジャンルが委縮しないようにとは願っておこう。

 なお、伝説のクソゲーと言っても本作それ自体はバカゲーとしてそれほどパンチがある部類ではない。
 神奈川県シナリオや沖縄県シナリオなど面白い反応が期待できる箇所もあるとはいえ、動画配信の題材として本作をチョイスるのはお勧めしないでおく。
 飯島多紀哉氏本人がそれを快く思わないということも要注意である。





・関連作品

・「学校であった怖い話」シリーズ本作のゲームクリエイター、飯島多紀哉氏の代表作。
本作中に主要人物がゲスト出演しているほか、千葉県シナリオでは彼らが大胆に活躍する姿もある。
・SIMPLEシリーズ Vol.74 THE ホラーミステリー 惨劇館〜ケビン伯爵の復活〜SIMPLEシリーズの一作。
有名なホラー作家、御茶漬海苔の代表作「惨劇館」を原案とした異色作で、マルチエンドを採用したノベルゲーム。
本作ついでにふと存在を思い出したのだが、内容はクリーチャーデザインと一部シーンを引っ張ってきたくらいでホラーというより悪との対決を描いたダークないし純ファンタジーだった。
触手とリョナ注意。


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