サイトトップ/ゲームレビュー/METAL GEAR AC!D
ページ公開:2022/04/12


METALメタル GEARギア AC!Dアシッド


プラットフォームプレイステーションポータブル
開発コナミ
発売コナミ
発売年月日2004年 12月
ジャンルタクティカルカード
プレイ人数1人(対戦・トレード・協力プレイ未対応
セーブデータ1つ37KB以上


システム シナリオ グラフィック サウンド ゲームバランス その他
実験的 難解 イラストは簡易的 ボイスなし 粗い 「2」があるものの・・・





・ゲーム概要

 2004年にPSP向けにリリースされた異色のカードゲーム。
 ステルスアクションというジャンルの立役者となった「メタルギア」および「メタルギア ソリッド」シリーズを題材とし、主人公スネークが繰り広げる数々の潜入ミッションをボード・カードゲームの形式で攻略するというコンセプトの作品である。
 こうしたゲームジャンルは非常に珍しく、特にテレビ・ビデオゲームとしては前例がない先進的な試みであったと評せるだろう。
 両ジャンルのファンであれば自然と期待が高まるその内容は、はたして・・・?

 (なおタイトルは「i」が反転した「AC!D」だが、検索の利便性から「METAL GEAR ACID」の表記もここに置いておく)


・ゲームのルール

 前例がないと言いつつも、本作を似たゲームと比較しながら説明するとなれば「戦術シミュレーション」、「タクティクス」ゲームが一つのベースとなっている。
 壁や敵キャラクターが配置された一定の空間「マップ」において、プレイヤーは自身の分身となるキャラクターに移動や攻撃の指示を出して、「マップ」ごとに設定された攻略目標の達成を目指す、という形式だ。

 これに敵キャラクターに見つからないように行動することでゲームを有利に進められるという「ステルス」要素が取り入れられており、例えば普段は積極的に敵対せずマップ内を巡回している敵兵士の視界に入ったり赤外線ゲートを通過したりすると「発覚」、周囲の敵が一斉にこちらを攻撃するようになるほか「増援」が現れてマップの攻略が困難になってしまう。
 この場合はトラックの下に潜り込んだり「ダンボール」を被ったりして身を隠すことに徹すればやり過ごせることもあるが、最善としてはやはりこちらに気づいていない兵士を各個撃破してゆきたいところ。
 単に背後や遠距離から射殺する以外にも「壁をノックする」ことで最寄りの敵をおびき寄せたり、巡回ルートを見切って地雷を仕掛けたり、いけない雑誌を置いて注意を釘付けにしたり、することができるため想像力を働かせて攻略に取り組むのが「ステルス」の醍醐味だ。

 しかして、この二つの組み合わせは単に面白さが二倍となるものではない。
 シミュレーションゲームにおいてはプレイヤーが複数のキャラクターを管理するというのが定番であり、本作においては「2人のキャラクターを同時に操作するステルスゲーム」という(当時)斬新なプレイ感が楽しめるのだ。
 一方が壁をノックして敵の注意を引きもう一方が背後を急襲する、一方があえて見つかり追われることでもう一方が仕掛けた地雷へと誘導する、別々の方向にあぶない雑誌を置くことで通路を確保する、とその戦術のバリエーションは急速な広がりを感じさせるだろう。

 ・・・正直これだけでも十分ゲームとして成立すると思うのだが、ここに「カードゲーム」、それも収集要素のある「TCG(トレーディング〜)」ないし「DCG(デジタル〜)」の要素をブチ込んでみたのが本作だ。
 つまり攻撃や移動の指示を「カード」を消費することで行い、どのような行動を重視しているか考慮しながらカードをまとめた「デッキ」を構築し、手札にどんなカードが来るかわからないランダム性のもとにゲームが進行する、という具合だ。
 例えば「攻撃」には「SOCOM」や「M4」といった銃器のカードを使用し、これにちらりと触れた「ダンボール」や「雑誌」といった「アイテム」カードや、「オタコン」や「リボルバーオセロット」といった「キャラクターカード」の特権を発揮して状況を突破してゆくわけである。
 一方で「移動」は原則ほぼすべてのカードと引き換えに行える代わり、カードごとの「コスト」を浪費するため強力なカードを盛り込んだのみのデッキでは息切れが厳しいことになる・・・

 ・・・という想定だったと思うのだが、本作の場合各カードの性能バランスが粗削りすぎて初期デッキの通常攻撃に相当する「SOCOM」カードと敵全体を一斉に行動不能にする「ゲノラ」とかいうぶっ壊れが同じコスト設定なんてことがあるうえ、ゲーム中盤以降で完全上位互換が登場しお役御免になるカードがあり、「装備」カードに関するシステムは無駄に難解など様々な点が洗練され切っていない。
 続編「2」でだいぶ改善されたとも聞くが、反応を見るまでもなくもうちょっとどうにかならなかったのかというカードの設計を見て行ってみよう。


・カードの基本設計

 まず、本作のカードには「コスト」という概念がある。
 これは使うごとに何かを消費するのではなく、使った後に硬直が発生するという要素で、ゲーム中ではマップ上の全キャラクターの残コストを比較・清算して少ないキャラクターから順に行動するよう進行してゆく。
 例えば「コスト6」を残した敵兵士に対しプレイヤーキャラクターが「コスト4」のカードを使った場合、次は敵兵士が「コスト2」、プレイヤーが「コスト0」の状態で再度プレイヤーにターンが回ってくることになる。
 本作は1ターンに2枚以上(条件により増加)のカードを使うこともできるルールだが、この場合焦ってコスト4のカードを2枚使って敵にターンを回すよりも、あえて1枚に押さえて次のターンに2枚使った方が多く行動できる、とこういう具合だ。
 また、コストが同じになる場合は先に待っていた側が優先して行動する。

 ・・・これ自体は明快で可能性を感じるシステムなのだが、本作の場合全体的にそのコストパフォーマンスがよろしくない。
 例えばゲーム進行の基本として言及されるものに「コスト-4」というカードがあり、効果としてはズバリ現状のコストを「4」すっぱりと清算してしまうことができる。
 レアリティは最低で、1デッキ30〜40枚に最大4枚組み込むことができ、「コスト4」のカード群と交互に出すことでずっと俺のターン!を展開できる。
 この時点で相当な壊れのはずだが、実はこのカードは「お役御免」になる類の一枚だ。
 ゲームが進行すると上位互換に当たる「疲労中回復」(コスト-8)、「疲労大回復」(コスト-12)、というさらなるぶっ壊れが登場し、マップの端から端まで静止した時の中を走り抜けるなんて真似も可能になってくる。
 ある意味「目にも止まらぬ」だけどステルスってそういうことじゃない

 ・・・とはいえカードゲームには「手札」の概念がある。
 「デッキ」から引いてきた「手札」の中から選択肢を選ばねばならず、これを使い切ればいかにコストを節約できたとしても行動できない、「ハンドアドバンテージ」を犠牲にするというのがカードゲームというものだ。ふつうは
 基本、本作はターンが回ってくるごとに「2枚」補充される。
 毎ターン2枚以上(条件により増加)使えるという基本ルールと折り合わせたというところだが、つまりコスト帳消しクロックアップは引き次第だがハンドアドバンテージを失うことはない
 デッキを使い切るとペナルティとして10コストを背負いデッキがリセットされるが、まあこれも大して気にはならないだろう。
 さらに数マップ攻略したあたりで入手可能になる「ジョニー佐々木」というキャラカードが曲者だ。
 レアリティは最低、コストは「5」、その効果と言えば・・・「手札をすべて捨てて6ドロー」である。
 手札の上限は6枚なので上限いっぱいドローできるというわけで、これ一枚引いてくるだけでハンドアドバンテージとか考える必要がない
 コスト4で3ドローの「オルガゴルルコビッチ」も同時期に同レアリティで入手可能で、このゲームにおけるハンドアドバンテージとは「手札が一杯で新しいカードを引いてこれない」を意味するようなものである。
 実際、カードは何であれ使うごとにコストがかかり、手札を2枚捨てて新しいカードと交換する「ディスカード」というシステムがある(毎ターンカードを使わないことと6コストと引き換えに使用できる)あたり、これが想定されたバランスなのだとは思うがなんとも特殊だ。

 ・・・強いてジョニー佐々木の欠点を上げるとすれば、その演出だ。
 「メタルギア」および「メタルギア ソリッド」シリーズを題材とした本作にはシリーズに登場したキャラクター達を描いた「キャラクターカード」があり、これらの多くには使用時に原作での活躍を描いたショートムービーが流れるという演出がある。
 「リボルバーオセロット」ならコルトS.A.A.を構えるシーン、「オタコン」なら隠れていたロッカーから這い出てくるシーン、という具合だ。
 ・・・その上でシリーズになじみがないとあまり聞き覚えがない「ジョニー佐々木」とは誰だろうか?
 これは「メタルギアソリッド」で独房の見張りだったゲノム兵の裏設定での名前で、おなかが弱くてトイレに席を外したり風邪薬のせいで居眠りしかけたりした挙句スネークにボコボコにされるなどするギャグキャラだ。
 彼のショートムービーはゲーム序盤においてパンツ一丁の尻を突き出して気絶している姿である
 (※誤解によりスネークによってパンツ一丁にされたと記述しておりましたが、丁寧な解説と共に誤りであったことをご指摘をいただきました。重ねて御礼申し上げます。
 ゲーム進行で有利だからと手札を高速回転させジョニー佐々木を場に出せば場に出すほど、プレイヤーはその尻を目の当たりにせねばならないのである。
 もちろんショートムービーはスキップ可能だが、本作のオプションは「文字表示速度」の設定しかないうえカードイラストがカードイラストなので、これは避けて通れない尻である。

 ・・・さて、「カードの分類」に目を背けてみよう。
 本作のカードには
 ・攻撃に使用する「武器カード」
 ・主に使いきりで特殊な効果を発揮する「アクション」カード
 ・装備している間継続して効果を発揮するか、使いきりで特殊な効果を発揮する「スペシャル」カード
 ・装備している間継続して効果を発揮するか、使いきりで特殊な効果を発揮する「アイテム」カード
 ・主に使いきりで特殊な効果を発揮する「キャラクター」カード

 という分類がある。

 ・・・お前は何を言っているんだと思うところだが実際「アクション」と「スペシャル」はカードのフチの色が違うくらいの差しかなく、「アイテム」も消費型のレーションやデトネーターがあるのでこう表現せざるを得ない。
 効果というよりは原作のモチーフによる分類と見るのが正解なのだろう。

 さてその「特殊な効果」とは「体力を回復(レーション)」や「装備中かつ静止していれば敵兵士の視界に入っても警戒されない(ダンボールA)」など単体で完結するものもあるのだが、本作の厄介なところはこの効果の多くが「武器カード」に影響するものというところにもある。
 正直言って無用に複雑というほかない、本作の「武器カード」についてもう少し詳しく見てみよう。

 なお、初期デッキに入っている「レーション」は最大LIFE200に対し150を回復し、「ダンボール」はゲーム内での説明が「装備して使用 紙製」のほかはラベルの模様への言及しかないとこれまたツッコミ所満載なのだがキリがないので割愛とする。


・武器カード

 「武器カード」は、使用することによって敵にダメージを与え撃破することができるゲームの基礎的なカードだ。
 初期デッキには「使い切り型」の「SOCOM」と「FAMAS」が入っており、「SOCOM」はコスト5で命中率が高く無音だが威力が低く、「FAMAS」はコスト6で命中率も難ありだが威力が高く命中ごとに相手のコストを増やす効果がある、という性能となっている。
 使い方としては、これらのカードを場に出して効果範囲から使いたい相手を選択して実行・消費、というシンプルなものだ。
 ただ具体的な性能の話をすると・・・
 「SOCOM」が命中率90%・威力10の攻撃を4回、「FAMAS」が命中率75%・威力20の攻撃を6回、となっており、期待値は0.9*10*4=36と0.75*20*6=90という具合で比較にもならず、しかも序盤の敵の体力が「60」なので確殺を取れないSOCOMはぶっちゃけ敵に撃つものじゃない。
 ただ遠方の相手を狙うとなると命中率が大きく減衰してしまい、監視カメラを破壊する用途ではSOCOMにまだ出番がないでもないか。

 と、いう具合に例によってバランスが取れていないのは問題だが、しかしより問題なのはこのゲームの武器カードの大多数を占める「装備型」のカードについてである。

 プレイヤーキャラクターにはいくつかの「装備スロット」があり、「装備型」のカードはここにカードを置くことで効果を発揮する。
 「アイテムカード」の「スコープ」なら装備している間遠方の相手に対する命中率が上がり、「ボディアーマー」なら被弾時に50%の発動率でダメージを50まで無効化する、という具合だ。
 しかして「武器カード」の場合はこうシンプルでもなく、一度「装備」した後同様の武器カードを同じ装備スロットに重ねることでようやく「使用」できるという形式となっている。
 最初の一枚ではコストがかかるくせに攻撃が発動せず、装備スロットを圧迫してアイテムカードが使いづらくなり、状況に応じて武器カードを使い分けるという運用にも適さない、とこの形式にメリットはほとんどない。

 メリットが全くないならば使わなければいいだけの話なのだが、それがそうもいかないのがまた厄介だ。
 ひとつに、「装備型の武器カードは『弾薬』を使いまわせる」というシステムがある。
 例えば威力と命中率に優れたサブマシンガン「MP5」は、強力だがランク最高一歩手前のレアカードであり同じカードを何枚もそろえることは難しい。
 しかして使用弾薬の「9mm」弾は「マカロフ」や「M92F」といったレア度の低いハンドガンで使用される弾薬であり、これを「同様の武器」という扱いで使用できる。
 「レアリティの高いカードをレアリティの低いカードぶん使いまわせる」というのは無視できないメリットだろう。
 この弾薬システムは、「マジック・ザ・ギャザリング」などの「マナの色」に例えて考えればそれほど抵抗はないはずだ。

 また、上で先送りにした「特殊な効果」の多くは「装備型の武器カードに重ねることで一時的に性能を強化する」というもの。
 「狙う」なら武器の命中率を上げ、「ヘッドショット」なら命中率が下がって攻撃回数が1に固定される代わりに当たった相手を即死させるようになる。
 命中率が低いが攻撃回数が多い、という武器なら「狙う」でダメージの期待値が大きく上がり、威力が低いが命中率が高い、という武器なら「ヘッドショット」でそのメリットが最大の武器に早変わりする。
 ・・・まあ、実際問題としては物陰から飛び出す移動に一枚、装備強化に一枚、装備使用に一枚、という具合でターン毎に使える手札の上限に達しやすく、コストもかさみ、ぶっちゃけ「スコープ」と同じように装備している間効果を発揮でよかったんじゃね?という考えがぬぐえないが。

 それから、装備中に被弾するといくらかの発動率に基づいて「反撃」するという特性もある。
 が、「反撃」した後は消費してしまい、わざわざ「反撃を禁ずる」強化カードがあるあたりこの特性はデメリットでしかない

 ほかに、装備型の武器カードには「インターフィランス」という特性もある。
 これは隣接する装備スロットに装備したアイテムの性能を変化させるというもので、「上に赤」なら上に装備したアイテムの攻撃力を10上げる代わりに防御力を10下げ、青ならその反対、「右に緑」なら右に装備したアイテムの発動率を10、防御力を5上げる代わりに攻撃力を5下げる、という具合である。

 ・・・ちょっと理解が追い付かない
 武器カードに防御力なんて設定はなく、「ボディアーマー」に攻撃力の設定はない。
 というか、そもそも初期装備スロットは「右・左」の二か所しかない。

 この謎を解明するにあたっては、ひとつに「装備スロットを拡張する」カードが存在する。
 マップの中で一度使えばそのマップ中拡張された状態を維持することができ、これによって上・下を対象とした効果を発揮できるようになるわけだ。
 ・・・問題は、これが「Lv1→2(2*2枠へ)」、「Lv2→3(3*3枠へ)」、の2種類あるという設計である。
 同カードを使うごとに装備スロットが増えてゆくというわけではなく、効果があるのはそれぞれ1枚きり、それをインターフィランスを活かしたいカードより先に引いてこなければならず、使った後でデッキから除外されるということもなく邪魔になり続ける。
 デッキのカードが一周するような長丁場であればまあ使いようはあると思う・・・し実際ステージによって数十分かかるものがあるのだが、そうした長丁場ほど再度手札に来て荷物にしかならないあたり洗練されていないというほかない。

 それから「インターフィランスのデメリット」に関しては、攻撃力は武器にしか、防御力は「ボディアーマー」などの防具にしか影響がない。
 武器に赤の効果が発動しているから被ダメージが増えるとか、防具に青の効果が発動しているから与ダメージが下がるとかといった効果はなくー・・・
 わざわざデメリットを発揮する配置にするわけもないのでこれはほぼ死に数値である
 「全方位に赤」なんて極端なものは(ほぼ)なく、「青」や「緑」は弾薬システムのせいで複数武器を使い分けるということがやりづらいので競合するほどに詰め込まない。
 「赤」のメリットは重複するうえ攻撃回数に乗算でかかってくるためかなりシャレにならず、これが装備スロット拡張の最大のメリットと言って差し支えないのだが、繰り返し「スコープ」と同じように装備している間効果を発揮でよかったのでは?という程度にはバランスブレイカーたりうる粗削りなシステムである。

 以上の特性を踏まえたうえで見てみたいのが「AKS74u(レーザーサイト付き)」だ。
 コスト7で命中率70%・威力5の攻撃を10回、期待値で言えば35、と一見初期武器のSOCOMにすら劣るザコカードだが、左右に赤のインターフィランスがあり、左右に並べるだけで期待値が105まで跳ね上がる。
 「弾薬」の仕様上同じカードを複数入れるのは必然でもあるので、この効果はほんの一枚余計に使うだけで構わない。
 反面反撃の発動率が70%もあり被弾したら左右どちらかはほぼ消失するため、特に注意してステルスを徹底する必要があるというなかなか味わい深い代物である。
 ・・・のだが、使い切り型のFAMASも期待値が90あったことを考えるとボディアーマーあたりを付けてこれを振り回していた方がずっと楽な感がないでもない。
 「ステルス」という基本システムを考えれば物陰で延々ディスカードしていれば攻撃力+40にボディアーマー4つとかいうフルアーマー状態で敵を蹴散らす真似も確実に実行できてしまうわけだが、それってステルスの遊び方でもカードゲームの遊び方でもないんじゃないかとか、ここまで武器カードを複雑化させてゲームとして面白くなったのだろうかとか、疑問を抱かずにはいられないところだ。

 (ちなみにゲームクリア後の高難易度モードでは敵の耐久力がインフレして実質インターフィランス必須のごり押しゲーである)


・ストーリー

 2016年某日、多数の乗客を乗せたジャンボジェット機がハイジャックされる事件が起きた。
 その手口は機内に臭化ベクロニウム ―大量に吸引すれば命に係わる麻酔薬― を充満させるというものであり、犯人自身は姿を見せることなく乗客・乗員全てを人質にするという、不気味にして巧妙なものであった。
 しかして、誰も彼もが昏倒した機内では犯人に代わって2体の操り人形が踊っていた。
 517名の命は、南アフリカのとある研究所に眠る「ピュタゴラス」と引き換えにする・・・と。
 タイムリミットは10時間、また、機内に爆弾が仕掛けてあること、乗客の中にアメリカ合衆国の大物議員ヴィゴ・ハッチを確認したこと、も事態を困難足らしめた。

 合衆国を含む各国の元首は緊急に対応を協議し、「ピュタゴラス」がモロニ共和国・ロビト島内の研究所にあると断定したものの、外交的交渉は決裂。
 合衆国は対テロ部隊HRTを潜入させ研究を奪取するという強硬策に出たものの、研究所にはかつてモロニの内戦で活躍した傭兵「レオーネ」とその部隊が待ち構えており、作戦は失敗に終わったのだった。

 HRTに教え子「テリコ・フリードマン」を輩出したCIA大佐「ロジャー・マッコイ」は一線を退いて久しかったものの、この件に積極的に関わることを決心し一人の男に協力を頼み出た。
 彼もまた現役を退いていた伝説の傭兵、「ソリッド・スネーク」に――。


 ・・・といった導入部を持つのだが、結論から言えば本作のストーリーはあまりに難解だ。
 というのは本作のストーリーが「自分は本当に自分なのか?」という疑心暗鬼を題材としていることと、それでいてPSY、「超能力で洗脳して言うことを聞かせる」ことがストーリーの前提としてあるためで、どれが真実でどれが嘘でどれが誤解でどれが演技でどれが洗脳なのか、容易には見分けがつかない内容となっているのだ。
 初見ではまず間違いなくミスリードを誘われるほか、意味深な表現ほど実は大した意味ではなく、「黒幕」の存在も伏線に乏しすぎて拍子抜けするだけであった。
 かつ、完全には真相が明かされず「続編に続く」という雰囲気で締められるものの、続編の「2」は全く別のストーリーが展開されたとか。

 ・・・反面、本作は他のシリーズ作品とはあまり関わりがなく、スネークに関して「伝説の傭兵」で「メタルギア」という核搭載兵器と死闘を演じてきたという情報さえ押さえておけば支障はない。
 この点だけはまあ、外伝版タイトルとしてありがたいところではあるか。


・まとめ

 「シミュレーション」と「ステルス」の相性が良いことに驚かされたが、正直カードゲームはべつにいらなかったんじゃないかと困惑する一本。
 対戦、トレード、協力プレイの一切は本作にはない。
 上記ではツッコミきれなかったが「カードキー」や「地雷探知機」など、本編ではキーアイテムに相当するようなカードもデッキから手札に引いてくる必要があり、本作のプレイ時間は望む手札を作るまでの選別作業に浪費することとなりがちだ。

 実体験としてもコスト-8を使った連続行動や極端にカードパワーの高いカードを使った一発逆転など反則的な能力によって状況を打開するという状況がままあり、ステルスとしてこれでいいのか、カードゲームとしてこれでいいのか、とためらうことが少なくなかった。
 ただ、こうしてゲームバランスをぶっ壊すことに痛快さを見出せるとしたら案外悪くはないのかもしれない。
 複数のカードをそろえて大きな効果を発揮するという「コンボ」の快感はあり、またカード収集もステージクリアでポイントを貯めて「カードパック」を購入するという形式、内容に一喜一憂することで「TCG」ないし「DCG」をプレイしているという実感も得られた。
 その点、複合的なゲームジャンルによるオンリーワンの体験があったことは否定できない。

 だいぶ人を選ぶとは思うのだが、「シミュレーション」、「ステルス」、「DCG」、といったジャンルを多数プレイし若干のマンネリを覚えた人ならば、良い刺激が期待できるだろう奇作というところである。





・関連作品

・METAL GEAR AC!D2続編。ホフクなど本作で不便さが指摘された様々な箇所に見直しが入り、カードとステージのバリエーションが大幅に増したらしい。
若干のプレミアがついており、今のところ未プレイ。
・「メタルギア」シリーズ元祖。第一作は「敵に見つからないことでゲームを有利に進めることができる」という「ステルス」要素を本格的に取り入れた初のテレビ・ビデオゲームとしてギネスにも掲載されている。
シリアス一辺倒ではなく、随所にお笑いを入れてゆくという作風は当時から健在。
・「メタルギア ソリッド」シリーズリメイク。プレイステーションによる3Dゲームの時代において「メタルギア」の続編として制作され大きな反響を得たシリーズ。
シリアスなストーリーに反し随所にお笑いが仕込まれていて親しみやすくもあり、主人公スネークはリアル頭身ながら「サルゲッチュ」や「スマブラ」とのコラボも行われる人気キャラクターとなった。
・ANUBIS ZONE OF THE ENDERSコナミのロボットシューティングゲー。「ADA」のキャラカードが「クロニクルパック」に収録。
・「ボクらの太陽」シリーズコナミのアクションRPG。「太陽バンク」、「暗黒ローン」のアイテムカードが「クロニクルパック」に収録。


サイトトップ/ゲームレビュー/METAL GEAR AC!D