○悪夢
機械のような、骨格のような無機的な腕に頭をわしづかみにされた中年の紳士が写る。
氏の額には小人が詰められた拳銃のような装置が突き付けられており、氏はそれから逃れようと震えているらしい。
と、「腕」が動く。
氏の額に小指をあてがい、ポケットティッシュの封を切るように左右に裂いたかと思うと、そこに「銃」から小人が飛び出して内部に挿入される。
小人の足までが氏の額に飲み込まれたあと、あふれた体液がどろり、と垂れて氏の視界を汚した。
○目覚め
イベントシーンが終わり、かなり粗い画質の主人公がベッドから起き出す。
都会の喧騒から逃れ郊外の屋敷を購入したこの男「マイク・ドーソン」は売買契約の際の不動産屋や近隣住人の不自然な態度に警戒感を抱いていたものの、まるでここだけが異世界にあるように寂とした雰囲気に惚れ込んで一晩の下見で契約を済ませ、そのまま屋敷で眠り込んでしまったのだという。
夢の影響か5・6秒に1回のペースで英語音声付きで頭痛を訴えるドーソンのために、まずは頭痛薬を探すことが最初の目標と言うところか。
かくしてここから本作の「ポイントクリック式アドベンチャー」が始まるわけだ。
本作は「移動」、「観察」、「接触」の3通りのアクションを切り替えながら気になったポイントをクリックして進めてゆく形式。
「移動」はドアフレームなどに反応して別の画面に移動でき、「観察」と「接触」はそれぞれオブジェクトに対して異なるアプローチを行う。
例として「トランク」に「接触」を行うと開閉を行うのみだが、開けた状態で「観察」することで中身を認識し改めて「接触」すれば取り出せると言った調子だ。
またゲームシステムとしてはリアルタイムで経過する「時間」の概念があり、ゲーム内の「3日間」が過ぎてしまうと時間切れでゲームオーバーと言うことである。
説明書ではこれをあなたの体内から生物が飛び出すとゲームオーバーです。とさらっと説明しているので現地では日常的な出来事なのだろうと納得して次に行ってみよう。
○ノーヒント
頭痛薬を探す・・・と言ってもベッドサイドにあるのは電話くらい、UI面で現在の目標やウェイポイントを提示してくれることもなく、ドーソンにも「○○に行かねば」などという独白は無く5・6秒に1回のペースで英語音声付きで頭痛を訴えるだけといきなりのノーヒントである。
アメリカでは洗面台の鏡の裏に常備薬がある(メディシンボックス)ことが常識なのだろうが、ローカライズで注釈されると言うこともなく日本人にとっては早速のハマりポイントと言うところだろう。
とはいえ海外映画やドラマでよくあるシーンでもあるのでここはあっさり見つけ、屋敷の中の探索を始めることに。
○電話
屋敷の中はボロボロで前の住人の持ち物が多数残されていた。
中にはアンティーク的な値打ちのあるものもあるのだろうが、古びたトレンチコートやワインの空き瓶、悪臭のする冷蔵庫などのガラクタはインタラクトしてもドーソンが調査を渋る具合である。
それでも「隠し部屋」や「ロープ」を見つけて探索に熱中していると「電話が鳴る」というイベントが発生。
すっかり電話の場所を忘れて玄関などをうろついたのちベッドサイドにたどり着き、慌ててカーソルを「接触」にして電話の位置にもっていきインタラクトする。
ドーソン:「誰に電話するというんだ」
・・・タイミング悪く電話が切れたのは分かるがちょっとリアクションが違うんじゃないかと思い舌打ちした。
○配達物
天井裏に鍵のかかったトランクなどを見つける頃、玄関のチャイムが鳴らされる。今度こそ間に合わねば。
出てみると郵便配達物らしく、ドーソンは早速中身を確認した。
赤ん坊の人形である・・・ホラーの定番である不気味さの演出、かと思うとこの人形がぐにゃりと変形し、合成樹脂とビニールパイプで覆われた人間の頭部のような物体が現れる。
息をのんでいると物体はまた赤ん坊の人形に姿を変える。これは夢なのか現実なのか――・・・異世界の片鱗にコントローラーを握り直していると
ドーソン:「」
なんかリアクションしろよ! ボケ殺しだよ!
この人形はアイテムとしてインベントリに加わることもなく華麗にスルーされ、仕方がないのでこの辺で家を出て町を調べることにする。
○臭い
家を出て左手は「共同墓地」らしい。ちょっと「ペット・セメタリー」を思い出す。
右手が町になっており、坂を下った先に警察署、食料品店、理髪店、図書館、が確認できた。
「気味が悪いほど静か」な町に身構えつつまずは腹ごしらえだろうと食料品店の前に立つと――
ドーソン:「シャワーを浴びなければ中に入れてもらえない」
ああ、臭いのねと納得して屋敷に戻る。
○サービス
屋敷の正面まで来て画面奥に道が続いていることに気付き、ガレージを見つけて「バール」と「手袋」を入手する。
またガソリンとキーのないクラシックカーが配置されており、これを修理するのがゲームの一つの攻略目標なのだろうなと思いつつシャワーに向かう。
中年紳士のシャワーシーン。すりガラスにシルエットが写る誰得演出に頭痛を覚える。
○時刻
さっぱりした後、すでに屋敷の探索や町との往復で結構な時間が経っているのではないかと不安になる。
ゲーム画面を隅々まで確認し適当にコントローラーをいじってみるが、現在時刻の表示はない。というかセレクトボタンで時間スキップまでされる。
悩みつつもセーブしたときに時刻の情報が確認できることに気付く・・・UIの不足であると憤ってから、すでに昼過ぎであることを確認してリスタートする。
○デルバート氏
食料品店に入店する。いろいろと商品らしきものが並んでいるが、奥にひと際目立つ酒瓶があったので「接触」する。
店員:「申し訳ありませんがドーソンさん お代を支払っていただきます」
・・・まさかの商品を選ぶ前の現金前払い式である。インベントリから「お金」を取り出すと「ご自由にお取りください、ドーソンさん」と言われたので改めて酒瓶を取る。
するとさらに
店員:「これが最後のですよ ああデルバートさんががっかりするだろうなあ」
すっげー買いづらい。
会話の多さや常連への配慮などの地域密着ぶりにうろたえていると、タイミングよく別の紳士が入店した。件のデルバート氏である。
デルバート:「ハーイ! ユーマストゥビーマイク! アイムネイバーデルバー!(ネイティブ音声)」
すっげー気さく。
陽気な挨拶から流れるように明日の午後に約束を取り付けられ、デルバート氏は特に買い物もせず店を後にしてしまう。
手元に残された名刺を見ると「弁護士 デルバート・ホストムスキー」、「刑務所脱獄無料」といった文字が残されていた。
ある意味コミュ障にとって恐怖の町だが、この辺で「ドーソンの一人相撲でここは案外普通の町なんじゃないか」という考えがよぎる。
○日記
さておいて次の目標は「明日の午後6時に庭でデルバート氏と会う」だろうか。
確認したところで自宅に戻って探索を再開、鍵のかかったトランクをバールでこじ開け「日記」を発見する。
何やらリビングの「鏡」が異世界との接点になっているという一文があり、確認すると一部が紛失しているということ、もともとはガレージにあったこと、が明らかになったが、それ以上の変哲もなく話が途切れる。
ガレージを再確認しようかなどと思っていると改めて電話が鳴り図書館に呼び出される。
○悪夢
図書館では配達と似たドッキリが仕込んであっただけで特にリアクションは無かった。
この日は黙々と探索を続ける中でうっかり自宅のベッドをインタラクトし就寝してしまう。
リビングにあった鏡を見つめるドーソン。だが、鏡の中の自分が不意に金属の像が溶けたような不気味な容姿に変わる。
・・・やっぱり特にリアクションもなく目覚めたドーソンは再度頭痛を訴える。
慣れた風に頭痛薬とシャワーをまとめてこなし、この日の探索の準備を整えた。
○放浪
・・・で、何をすればいいんだろう?
午後6時の約束はあるが、ドーソンの屋敷に「お隣さん」は見当たらない。
屋敷から左右の画面は共同墓地への道と町への坂である・・・時間に間に合うようデルバート宅を探すことに決める。
が、全く見つからず、また何一つイベントが起きないまま時が過ぎる。
この間に警察署の壁に拳銃がぶら下がっていたので拝借したり、食料品店でしょうゆとクラッカーを購入してお金が尽きたりした以外にこれといった変化もなく、時刻を確認しようとしてその状態をセーブもしてしまう。
結局、午後4時頃になってガレージの脇の植木の後ろから見えない道が続いていたことに気付きデルバート宅の確認に成功した。
○狂気
結局デルバート宅の庭で待っていてもデルバート氏は現れなかったが、画面に入り直そうと移動したところ自宅のガレージ前で声を掛けられる。
改めて庭に入るとデルバート氏はゲストをほったらかしにして終始無言で自分の犬に棒を取ってこさせる遊びを続けている。
絶対怒ってるよこれ・・・とか思いつつなんとかコミュニケーションを取ろうと「接触」するが、ドーソンもドーソンで話しかけることもなくいきなりデルバート氏の体に触れるなどする。
ならばとアイテムを確認、「ロープ」や「手袋」などここまで一切使い道のない道具をスルーしつつ件のウィスキーの酒瓶を渡す。
礼も言わずその場でラッパ飲みするデルバート氏。
すっかり飲み終わってから礼を述べたものの、特に夕食などを提供することもなく一人立ち去ってしまう。
心境的にはしょうゆとクラッカーを両手に呆然としながら、ただひとつ残された「棒」を持ち帰って枕を濡らした。
○悪夢
用途不明の機械にがっしりと固定されたドクロ。
ドクロの中で胎動する何か。
ドーソンの首が腐敗してドクロとフラッシュバックし目玉が溶ける。
すっかりおなじみとなった頭痛に対処してから、いよいよ何も無さすぎてやべえと焦り出す。
ここまでで使ったアイテムと言えば金とバールとウィスキーくらいである。
○発見
何か変化があるかもしれないともう一度家の中を見て回り、トレンチコートのポケットに「図書カード」が入っていることを見つける。図書カードと言えば図書館だ。
図書館に着くとカードに対応した本を調べることになる。本には「日記の切れ端」が挟んであった。
日記の切れ端には共同墓地にあった納骨所の開け方と、物語を進めるであろう「時計の鍵」についての記述があった。次は共同墓地だ。
「時計の鍵」は「タトルじいさん」が飲み込んで死んだとあった。つまり納骨所で棺か骨壺を探せばいい。
というわけで骨壺が並んだ棚に「レナード・タトル」の骨壺を発見。早速「接触」する。
ドーソン:「よくやった!これでレナードの灰だらけだ」
お、おう・・・おう?(ドン引き)
数回繰り返したがドーソンはタトル氏の遺灰を浴びて満足するのみ、道具を使って調べようにも反応が薄くロープを持って調べると「これは吊るす花瓶ではない」などと不謹慎極まりない発言を繰り返す始末。
もうすっかりドーソンは狂気に飲まれたのか・・・などと諦めつつ手ぶらで屋敷に戻ると、屋敷の前に警官が待ち構えていた。
まさかの逮捕オチ。 ||Φ|('A|`)|Φ||
○終わりに
独房に叩き込まれたドーソンだがこれといって脱出方法を見つけられず、「脱獄無料」と書かれたデルバートの名刺を握りしめながらここで攻略を挫折することとなった。
どうせならバッドエンドを・・・と思ってセレクトの時間送りを連打したが「独房では時間がゆっくり過ぎる」とのことで効果が無く、本体の電源を落とすしかない詰みなのだと納得した。
(実際は詰んではいなかったのだが)
結局このプレイのドーソンは悪夢と頭痛から奇行に走って逮捕されたおっさんでしかなく、町には何も異変はありませんでしたと言う形でゲームを終えた。