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ページ公開:2018/08/28


POISONポイズン PINKピンク


プラットフォームプレイステーション2
開発フライトプラン
チャイム
発売バンプレスト
発売年月日2008年 2月
ジャンルダークファンタジーシミュレーションRPG
プレイ人数1人
セーブデータ474KB以上、10ファイルまで


システム シナリオ グラフィック サウンド ゲームバランス その他
闇鍋 打ち切りあり 乏しい 地味 かなり粗い CERO:B
(12歳以上対象)





※※※今回のレビューは多めのネタバレを含みます※※※


・ゲーム概要

 2008年のバレンタインデーにリリースされたシミュレーションRPG。
 淡く繊細なゴシック調のイメージイラストで「魔神(※)」のはびこる異界「ベセク」での死闘を描く、「ダークファンタジー」という分野の一作品である。
 (※魔神の「神」は「神」の下に「人」を置いた字、カプエス2の神人豪鬼と同じだがフォントの問題で以下は「神」に統一する)

 システム上の最大の特徴は敵として出てきた魔神を調伏し使役する「捕獲」であり、また捕獲した魔神を解体しスキルやアイテムを抽出する「椿姫の館」である。
 魔人の解体は生きた魔神を巨大なミキサーに放り込んで四肢を引きちぎり滴り落ちる液体を集めるという演出を採り、これがまた「ポイズンピンク」として本作の題を飾っているわけである。
 暴力的、背徳的、享楽的・・・心を蝕まれる覚悟があるのなら、その狂乱の世界の扉を叩いてみよう。


・ストーリー

 人の他に、魔と精霊が存在する現世界アーレア。
 創造主である女神アトーナを信仰する聖バルド教、およびこれを国教とする聖バルダミアン王国は、聖バルド教から分派したスターグ教の異民族たちと800年にわたる戦争を続けていた。
 この長い戦争はもはや王国を強固にする習わしとして取り込まれており、現在の騎士団長「オリフェン」は伝統に従って王国の姫「ルナーシェ」の婿となる日を目前としていた。
 しかし、その日は王国を襲ったある異変によって奪われることとなる。
 人類の敵対者「魔神」の巣窟である「獄界べセク」が王国の一角に出現し、これと同時にルナーシェ姫の行方も知れなくなったのである。
 この異常事態に対し、現国王は病を押して人民の前に現れてこう宣言した。
 「身分、民族、異教徒、の何事も問わぬ、獄界べセクの最深部に連れ去られた姫を救い出せ、さすればノゾミの褒美を与えん――
 しかし、王の思惑を他所にある伝説がまた人々をべセクへと惹き付けていた。
 誰も見た者が無いという強大な力、「究極の毒(パーフェクトパフューム)」の存在が・・・。

 (一部説明書より抜粋)


・主な登場人物

 ・テージ (CV:須藤祐実)
 3人いる主人公のうちの1人。まだほんの少女ではあるが魔法に関して超人的な適性を持ち、魔神に対しても傲慢とさえいえる超然とした態度を崩さない人物。
 その出自を始め多くの秘密を秘めており、べセクへは「究極の毒」の入手と「魔本リベル・ウェスペル」の完成をもくろんで訪れている。
 「眷属の血脈」という特殊スキルによって一切の魔法が効かず、得意とする炎と闇の攻撃魔法は最高位の威力を発揮する。

 ・ラナンキュラス (CV:大川透)
 世界崩壊の神話にその名を残し、「導きの賢者」の異名を持つ狼型の高位魔神。愛称は「ラキ」。
 現在はテージを主たる「イゼット」として付き従い、「究極の毒」が待つべセクの最深部へと導いている。
 武器や防具を装備できないが物理関係の能力がまんべんなく高く、戦闘の先陣を切るのに申し分ない。

 ・ルティカ (CV:冬馬由美)
 べセクの入り口で運悪くテージに見つかり、「従属の契約」によって下僕とされた少年。
 「異端児」としてバルド教徒と魔神の双方から迫害されており、余命わずかと知りつつ「究極の毒」によって目的を果たすべく行動している。
 弓と回復魔法を得意とする支援特化ユニット。能力的にも戦闘スタイル的にも半端さが目立ち、Lvを上げづらいので意識してコキ使おう。

 ・オリフェン (CV:神谷浩史)
 3人いる主人公のうちの1人。若くして聖バルダミアン王国騎士団長を担う、心身ともに秀でた好青年。
 婚約者でもあるルナーシェ姫の安否を心配するあまり、騎士団長という立場を逸脱してベセクの探索に訪れる。
 片手剣と刺突剣を使い分けて柔軟に弱点を突くことが可能で、手数につながる素早さは全キャラクター通しても突出した伸びしろがある。

 ・ローグ (CV:稲田徹)
 オリフェンと共に育ち、多くの戦場を潜り抜けてきた兄弟分。
 竜を退治した過去から「竜殺し」の異名を持つが、その折に呪いを受けて魔神との接点となってしまっている。
 鈍足だが攻撃力と防御力においてトップクラスの能力を持ち、ゲーム中盤のクラスチェンジでどちらかに特化する決断を迎える。

 ・リバト (CV:杉本沙織)
 聖バルド教の歴史において最年少で神官となった天才少年。
 しかしそれを驕るようなところもなく、魔神への恐怖を押し殺しながらオリフェンのベセク探索を支えることとなる。
 オリフェン編におけるヒーラー兼マジックアタッカー。得意とする聖属性の回復魔法は効果が大きいが対象が単体に限られるため、範囲回復可能な水属性の魔法も持たせておきたい。

 ・マリィ (CV:鈴木麻里子)
 聖バルド教の神官で「ディーグ族」という人間よりも魔法への適性が高い種族の女性。
 仲間思いだが気が強く、オリフェンとは衝突が絶えないでいる。
 オリフェン編における本業マジックアタッカー。最高クラスの魔法攻撃力に加え素早さも高水準で、恐るべき継続火力を誇る。

 ・ハーシュ (CV:中原麻衣)
 3人いる主人公のうちの1人。聖バルド教の神官として、人道的活動と調査のために獄界べセクに派遣された少女。
 しかしルナーシェやテージと共通するある秘密を抱えており、それを見透かしたデュファストンによって「魔本」を託されている。
 神官として回復魔法を得意とするが肉弾戦も人並み以上にこなすことができ、パーティーの中核として柔軟な役割をこなすことができる。

 ・グリン (CV:松原大典)
 聖バルド教の修道士で優秀な戦士であり、ハーシュの幼馴染でもある青年。
 ハーシュの事をなにかと気に掛け、素性の知れないレイナやデュファストンへの警戒心をあらわにしている。
 モブ顔の通りの地味なユニットだが、対応した状態異常攻撃が多く射程2の槍は多くの場面で重宝する。

 ・レイナ (CV:斎賀みつき)
 聖バルド教の修道士で弓の名手である女性。
 ベセクに関する様々な知識を持ち独自の思惑を秘める謎の多い人物である。
 弓を武器とするユニットとしては最も実戦的で、正面にしか攻撃できない弓の死角を炎魔法でカバーしている。

 ・ロンデミオン (CV:てらそままさき)
 もう1人の主人公。かつてその命を賭して魔神「シェイプシフター」を討ち取った「勇者」。
 隠しキャラクターであり、他のキャラクターで特定の条件を満たさなければ出現しない。

 ・デュファストン (CV:関俊彦)
 獄界ベセクが出現した一帯を治めていた領主。爵位は侯爵。
 現在はベセクを訪れる冒険者たちのサポートとなる街「アジト」を運営しており、主人公たちとも気さくに情報交換を行っている。
 しかし突如ベセクの深部に訪れて主人公たちをねぎらうなどその行動には不可解な点が多く、大勢から警戒されている。

 ・シェイプシフター (CV:関俊彦)
 かつてロンデミオンと死闘を繰り広げた高位の魔神。
 序盤に登場し主人公の魔本を探ろうとするが、深追いはせず様子見に徹する。ラナンキュラス曰く「道楽者」。
 直後アジトに戻るとデュファストンがちょっと反応するあたり、正体を隠す気は全くないらしい

 ・ルナーシェ (CV:久川綾)
 聖バルダミアン王国の姫。獄界ベセクの最深部に捕らえられているとして国王から救出の命令が出されている。
 3人の主人公それぞれとつながりを持つ、物語の鍵となる人物である。

 ・バルド王 (CV:中田浩二)
 聖バルダミアン国の現国王。伝統から言えば騎士団上がりの人物で、執政は「評議会」に委任しているものの姫の失踪に対して捜索の命令を出した。
 デュファストン侯爵にとっては叔父にあたり、「魔本」に対する知識もある。


 3人の主人公はそれぞれの仲間と共に独自の視点で物語を展開し、獄界べセクの深部を目指してゆくこととなる。
 各々が接触する機会は限定的だが、それぞれがルナーシェ姫と接点を持ちベセクの最深部を目指す物語にはすべてを目の当たりにすることで明かされる謎がある・・・とされている。
 3つのゲームデータを作成しそれぞれのルートを攻略することが「ポイズンピンク」の目標と言える・・・のだが・・・。


・魔神の利用

 本作の舞台となる「獄界べセク」はいくつかの階層からなるとされ、それぞれ地上世界の伝承を再現したような異世界が広がっている。
 主人公らは探索の拠点となる「アジト」で準備を整えたのちベセクの階層を一つずつ攻略し、捕獲した魔神を連れ帰っては粉砕、得たものを元に新たな準備を整えてゆくという流れを取ってゆくことになる。
 特に魔神を粉砕する機械「カメリア」の駆動音と魔神の断末魔を仄暗い「アジト」に響かせながらその解体方法を熟慮する様などは、ダークファンタジーならではの愉悦感を提供することだろう。

 「アジト」で出来ることはいくつかあるが、やはり最も魅惑的なのは魔神を様々に利用する「椿姫の館」だ。
 名前の由来についてはあえて触れないでおくが、ここに捕獲した魔神を持ち込んだ場合
 ・「ブックセット」に登録して戦闘中に使役可能にする
 ・粉砕して「PP(ポイズンピンク)」を抽出する
 ・粉砕して「スキル」を抽出する
 ・売却して「資金」を獲得しつつ「ショップの在庫」を補充する

 という形で利用でき、また下位3つを網羅した魔神は「購入」して補充することも可能となる。
 「捕獲」の具体的な方法は・・・後述するとして、ここではそれぞれの用法の詳細を見てみたい。

 「ブックセット」によって登録した魔神は戦闘開始時に「出撃」させたり戦闘中に「召喚」したりして、一体のユニットとして行動させることができる。
 ユニットとしての魔神は「炎属性を吸収」や「飛行移動」など人間ユニットが持たない個性的な能力を持つものが多く、また捕獲した時点で敵ユニットと同等のLvを持つ即戦力として運用することもできる。
 ただし一切の経験値を獲得できずLvが固定、一度に召喚していられるターンに制限もあり、HPが尽きて撃破されると完全に消失してしまうというデメリットが目に付く。
 仮に魔神頼りの戦闘をしてしまうと人間ユニットに経験値が入らず徐々に苦しくなってゆく、それこそ毒のような存在となりうるため気を付けておきたい。

 「PP(ポイズンピンク)」はこの魔神の使役に消費するポイントである。
 召喚された魔神はターンごとにPPを消費するのでなかなか消耗が厳しく、魔人を積極的に運用する場合は意識的に補充することが求められる。
 具体的には魔神を召喚ターンの上限まで使役した場合、合計では同じ魔神から抽出できるPPより若干多い額のPPを消費する例が多いので、戦闘ごとに出撃数以上の魔神を捕獲し粉砕させてゆくのが目安と言えるだろうか。
 ただ、捕獲に失敗し敵魔神を消滅させた際にも本来のPPと所持金の半額ずつが獲得でき、使役以外では使い道がない値であるため、実際のところはむしろ勝手に貯まってゆくこととなるかもしれない。

 「スキル」は人間キャラクターの武器や防具のスロットに付けはずしすることのできる特殊技能で、ほとんどは魔神の解体でしか手に入らない貴重な存在である。
 攻撃に状態異常を付与するもの、魔法攻撃を可能とするもの、特定の攻撃に対する耐性を高めるもの、と豊富に種類があり、多くは装備を更新しても長く使いまわせるため早期から収集しておきたい。
 さらに、これらスキルは「ショップの在庫」を通して主人公同士で融通することもでき、ゲーム全体の進行における大きな助けとなりうる。
 具体的にはスキルをセットした装備を道具屋に売却するとその装備が「特装品」として店頭に並び、データ全体でその内容を取引できるという形だ。
 また、魔神を売却することではデータごとのショップの内容が充実し、「+1」などの強化品や魔神の装備を取り上げた特殊な武器が並ぶこととなる。
 同時に獲得できる「資金」でそのまま購入できることが多いため二度手間を感じないでもないが・・・まあこちらの方が形式としては柔軟だろう。

 ・・・ただし、「特装品」はデータ全体で管理され、データごとのインベントリは任意にセーブする必要があるため・・・。
 現行のデータで装備を売却→別スロットにセーブ→ロードし直し
 とすることで、取引の分資金は減少してゆくものの装備品とスキルはごく簡単に増殖できてしまうこととなる
 これに加えて本作は後述の「ある設計」によって、治療アイテムの消費を見越して商品を補充しておくとかそのためにエネミーを集中的に狩るとかといった、在庫制ならではの維持や繰り返しの目標を作ることが出来ていない。
 ショップのシステムだけで本作の内容が見通せるわけではないが、この「作り込みの粗さ」は本作全体への不安を覚えさせるものであり、そして結論から言うとその不安は的中してしまう


・魔神の一例

 ・魔神ゴートアス
 名前通り山羊の頭を持つ人型の魔神。
 チュートリアルを始めベセクの浅い階層に出現し、クリティカル率を中心に無難な物理戦闘力を有する。
 Lv7の個体は射程2の刺突攻撃を使うことができるので、序盤においては前線を補強するために役立つかもしれない。

 ・魔神アクアコクレア
 兎のように大きな耳を持つ魔神。
 序盤から終盤まで広く登場し、飛行の特性や水属性の回復魔法など豊かな特徴で存在感を放つ。
 何体か捕獲しておき、回復魔法だけ使わせて交代させれば序盤の回復役として重宝するかもしれない。

 ・魔神エクエスマキナ
 斧を持った空の鎧が自律している魔神。
 序盤の個体は鈍重でさして驚異とはならないが、中盤の山場で出会う高Lvの個体は物理方面にオールマイティな能力を持つ別物。
 脅威であると同時に魅力的であることを痛感する相手だ。

 ・魔神シーフラー
 小動物のようなすばしこい体を持つ魔神。
 「鍵開け」という特技で勝手にマップ上の宝箱を開け消失させてしまういやらしい特徴を持つ。
 人間ユニットでは到達不可能な浮き島に直行する等露骨な行動パターンを持ち、普通にプレイするうえではこちらもシーフラーの召喚で対抗するくらいしか手がない事が多い

 ・魔神シルフィス
 なまめかしい妖精を思わせる女性型の魔神。
 魔法攻撃を得意とするが物理攻撃全般が効きづらく、闇・聖属性にだけ極端に弱い。属性の重要度が高い相手だ。
 おおむねスキルとして状態異常の治療魔法が獲得できるため、積極的に捕獲を狙っておきたい。

 ・魔神キャンサギガス
 カニのような甲殻を持つ巨大な魔神。
 ザコながらユニット4体分の大きさを誇るLサイズユニットで、見た目通り鈍重だが攻防のパラメータが高い。
 また、スキルを抽出すると瞬間的にキャンサギガスを召喚して周囲を攻撃させる必殺技「キャンサロール」を獲得することができる。

 ・魔神ルナ・ベラトール
 テージ編で最初に遭遇するボスで、「超神」なる高位魔神の一体。
 ボスらしいLサイズユニットとして小回りに難があるが、攻撃力が高く「反撃」スキルによって手数を補うことができる強力な魔神。
 捕獲難易度は高いが成功した時の見返りは大きいだろう。


 なお、戦闘アニメーションに突入した際これらの魔神は不気味な叫び声を上げるのだが、よく聞き取ってみるとこれらは自身の名前であることがわかる。
 どういうことかというと、千葉繁のアドリブのようなハイテンションぶりで笑いを誘うということである。
 決めポーズをとることといい軽く雰囲気台無しなので蛇足だったと思える点の一つだ。

 また、これら魔神は「捕獲」を始め次の項で説明するいくつかの戦闘システムに参加できず、アイテムも使用できない。
 特徴的な能力や高いLvで戦力となるのは確かなのだが、詳しく見れば詳しく見るほど戦闘における重要度が疑わしい存在となってゆくことだろう。


・戦闘システム

 というわけで、「魔神」と繰り広げられる本作の戦闘システムを見て行こう。
 視点は立方体の頂点から底面を見る斜め見おろし視点でマス目は四角形、「高さ」の概念あり。
 ユニットは向きによって被ダメージが変わり、行動順は全ユニットのうち行動可能になったものにターンが回るオーダー制。
 属性は魔法6属性と打撃3属性がありそれぞれに対する弱点や耐性が設定されるが、優劣の関係は無くキャラクターごとの得意・不得意を見極める必要がある。
 魔法やアビリティは回数制で、戦闘中の補充手段はないのでこれもうまく使い時を見極めよう。

 とまあ、基本システムは比較的オーソドックスなものだ。
 これに対して注目したいシステムの一つは魔神の「捕獲」と「オーバーキル」である。
 本作に登場する魔神は通常のHPに加え「オーバーキルゲージ」という余剰分のHPを持っており、一度の攻撃で大ダメージを加えこのゲージを削り切ることで「オーバーキル」が成立、「拘束」という特殊な状態異常が発生して「捕獲」可能な状態になる。
 後は捕獲を実行させたいユニットを隣接させて捕獲コマンドを実行し、若干の経験値と共に魔神を虜とするというのが一連の流れだ。
 逆に「オーバーキルゲージ」分を削り切れなかった場合は捕獲に失敗して魔神が消滅し、PP抽出や売却で手に入る額の半分ずつとまれにドロップアイデムが獲得される。

 そして、この「オーバーキル」を成立させやすくするのが「命令」と「双撃」というシステムである。
 主人公キャラクターは「自身にターンが回った時点で移動や攻撃を実行せずに待機したユニット」に再行動の指示を出すことができ、またこれの派生として自身を含む2体のユニットが特定の対象に通常攻撃可能な場合に2体で連携攻撃を繰り出す「双撃」が使用可能となる。
 「双撃」では2体分のダメージが単純に合計されて大ダメージを出しやすいほか、相手の回避や反撃スキルを無視することができるという特性が与えられる。
 また地味ながらこの攻撃で撃破した敵の経験値は参加した両ユニットに加算されるというメリットが発生するので、行動順を上手く把握して積極的に狙ってゆくと良いだろう。

 と、小ぎれいにまとめたいところだが。
 「オーバーキル」をゲーム用語としてみた場合、そこには様々な攻撃バフ(能力上昇・倍率ボーナス)を乗せて本来撃破するには不必要な何倍・何十倍・何百倍のダメージを叩き出す、爽快感目当ての行為という側面がある。
 しかし、本作にはそうしたオーバーキルに必要なあるものが存在していない。

 あるもの・・・それは攻撃バフが存在していないのだ。
 このため、本作で大ダメージを出すには
 ・そもそものLv差でゴリ押し
 ・敵ごとの弱点を確認して攻撃手段を選択
 ・クリティカルが出ることを祈るか、物理攻撃の被クリティカル率が100%になる「睡眠」状態にする
 ・双撃を使用する
 ・パラメータ全体が減少する「病気」か物理属性への耐性が低下する「凍結」状態にする

 くらいしか手段が無く、最大HPの何倍などというダメージはまず拝めないのである。
 となれば、本作のシステムとしての「オーバーキル」を決めるにはあらかじめパーティー内で出せる最大ダメージを把握しておいて、これでオーバーキルゲージを超過できるまで小ダメージを重ねてHPを調整、待機連打のターン送りで本命のキャラや「双撃」を活用してゆく、としなければならない。
 言ってしまえば本作の「オーバーキル」は名ばかりで、その実態は大ダメージの爽快感とは真逆のHP調整を強いられるシステムであるわけである。
 また、さらに間の悪い事に本作は攻撃を指示した際にダメージ予測の類が表視されない。
 このため与ダメージの調整は極めて面倒だし、またオーバーキルを狙わない場面でも逐一相手の耐性を確認して有効打を選択しなくてはならない。
 意図的な設計というよりは、ここはUIデザインの甘さという問題が現れているのだろう。

 また、魔神に関するものとしてはもう一つ不可解なシステムがある。「魔神障壁」である。
 これはボス格の魔神が有している特殊能力で、ある一定の条件を満たすまであらゆる攻撃を無効化するというなかなかふざけた性質のもの。
 この条件というのが仮に取り巻きの魔神の全滅や特定座標への到達といった条件であればまあ攻略に変化を与えるギミックと解釈できなくもないのだが、ゲーム内の物を見てみると
 「弱点の刺突属性攻撃を行う」、「弱点の風属性魔法を当てる」、といった一番大事なところが守れていないザルばかり
 さらに一定ターンで再生したり新たな障壁を張り直したりといった行動は見られず、そもそも障壁の破り方は必ず戦闘中のターン経過イベントで仲間があっさりと見破ってしまう
 一度弱点属性で攻撃したら終わりの、ちょっと手間を増やすシステムでしかないわけである。

 が、たまたま障壁を破れるユニットが撤退していたり用意できていなかったりすれば今度は詰むしかなくなる危険もある。
 そこで、魔神障壁を持つ魔神(=ボスキャラ)は一定ターンが経過すると撤退するという救済措置も用意されている。

 いや根本から見直せと。

 この設計でも「一度マップから撤退して他の場所で鍛え直す」ことができればまだ目標として機能したと思うのだが、本作はゲーム全体の進行においてこれを許してはくれないのであった。


・ベセク探索

 複数の階層からなる「獄界ベセク」を探索する本作。そのゲーム全体の進行にある問題というのは早い話が前のステージに引き返せずただ前に進むしかないという仕様である。

 これまで本作のシステムをいくつか紹介してきたが、「稼ぎ」を行えないという一点で本作の特徴は魅力になることもなく腐ってしまっている

 例えば魔神を解体して任意の資源を得るシステムがあるが、ステージを引き返せないため同ステージを周回して収集するという目標の設定につながっていない。
 資源を収集できないうえに基本的な回復・治療アイテムにまで在庫数が設定されているため、アイテムは後の台所事情を鑑みて使い渋らざるを得ない。
 ベセクの階層にはいくつかの分岐が存在するが、それぞれの階層を行き来できないため未知の魔神と装備を探すという冒険心を刺激できていない。
 一方で捕獲の失敗は貴重なスキルの喪失を意味するため、未知の魔神は必ず捕獲しなければならないという強迫感を生んでしまっている。
 というのに捕獲することが難しい強力な魔神に対して、前の階層でLvを上げて再挑戦するといった攻略方法が許されていない。
 むしろゲームの進行上獲得できる経験値がほぼ有限ということになるので、補助魔法の掛け合いなど涙ぐましい経験値稼ぎを禁じ得ない。
 関連して、貴重な経験値を無駄にしてしまう魔神の使役には心理的な抵抗が小さくない。
 繰り返しになるが、魔神障壁のあるボス戦は詰み回避として勝手に準クリア扱いになる。

 ・・・とまあ、あれこれあったシステムがことごとく台無しで凡庸未満の内容になってしまっているのである。

 マップを選択するランダムバトル一つ導入するだけでこれらの印象はだいぶ変わったはずなのだが、現実にはこんな具合だ。

 また、本作にはこれらを踏まえたうえでなお不可解なシステムがある。「2周目」である。
 本作は主人公らのステータスを引き継いでゲームをはじめからやり直す周回の要素があり、あるというのに敵の強さは1周目と全く同じなので大概なパワープレイでオーバーキル連発という大味な内容が展開される
 これは完全なオマケと割り切ってしまいたいところだが、実は本作のストーリーは3分岐しているステージのうち正解の一つを引かないとラスボス前で引き返す打ち切りエンドになるという大概な初見殺し要素が存在しており、周回はほぼ前提となっているとみていいだろう。
 また、パワープレイ可能な2周目以降ならルートを網羅してスキルを収集し「特装品」で融通することも容易いので、ゲーム全体を見越すとゲームを一周したのちは「狩り」・「稼ぎ」が解禁されると言えなくもない。
 ・・・なぜこれだけ回りくどい設計ののちにセオリーにたどり着くのか、本作が目指したゲームバランスの方向性がまるで特定できないことに千鳥足になるところである。


・傭兵と仲間

 また、ここまで言及を避けていたが本作にはまだ「魔神」の使役を渋らせるシステムがある。「傭兵」だ。
 獄界べセクの探索をもくろむ者は各主人公一行以外にもおり、「アジト」で彼らと接触できれば仲間として引き込める可能性があるのである。
 彼らは人間ユニットとして主人公ら同様にレベルアップし、装備を付け替えられ、魔神と異なりアイテムの使用や双撃への参加も可能である。
 ゲームクリアを念頭に置けば彼らと共に戦い、成長させて戦力を揃えることが広いシチュエーションに対応可能な強いパーティーの編成につながることだろう。

 では彼らとの経験値の取り合いで魔神が使いづらくなるのかと言うと、それも一理あるのだが実際はもっと直接的な理由がある。
 魔神と人間は同じ出撃枠を使うので、単純に席の取り合いになるのである。

 さらには、ゲーム中で仲間になる傭兵が最大で12人にも及ぶのに対し出撃枠は「最大7体」で固定、主人公一行は強制出撃なので3・4人の枠を12人と魔神で争うこととなる。
 傭兵には水と聖属性の回復魔法を使いこなす本格派ヒーラーのシトラ、飛び抜けたHPを誇る壁役のアレクセイ、高い素早さを筆頭に全能力が高水準でまとまった遊撃役のアレス、と優秀なキャラクターが揃っているので、これらと比較してなお採用できる魔神はそう挙がらないのが実情だろう。
 強いて言えば人間ユニットが揃っていない最序盤の穴埋めやパワープレイに傾倒した結果傭兵が育たなかった2周目の補欠、デカいぶん敵を足止めしやすいボス格の魔神や、宝箱を回収するためだけに使われるシーフラー、あたりは使いでがあると言えるが・・・。
 本作の題「ポイズンピンク」を思い返せば本作の世界観の肝を成すはずだったろう魔神の使役が、こんなぞんざいな扱いでいいのかと目頭を押さえるところである。
 (一応魔神の使役が必須となる隠しシナリオも存在するものの、極端から極端に走る姿勢にはますますの無計画さを感じるところである。


・まとめ

 人間の脅威たる「魔神」を逆に調伏し、使役し、解体し、回収して、他の魔神を脅かす武器として行くという陰惨なダークファンタジーたる本作。
 不遜な美少女テージや若き騎士団長オリフェン、不気味な貴族デュファストンといったキャラクターのビジュアルも良く立っている。
 ところが実際にプレイしてみると「敵を逆用する」というコンセプトや探索のゲームボリュームを自ら殺すような内容が続き、「クセはあるが特徴は無い」とでも表現したくなるようなごく残念な仕上がりとなってしまっている。
 期待する部分ほど裏切られるので、プレイ前の妄想がハイライトとなる類の一本というところだ。

 蛇足としてまた一つ本作のシステムを挙げれば、戦闘中に頻繁にキャラクターが会話して攻略のヒントや挑発を交わすというものがあるのだが・・・。
 一つのステージにターンをかけすぎるとこの内容が暴走し、ネットスラングを交えた萌え漫談など「ふざけ」の過ぎる内容が披露されることとなる。
 これは経験値稼ぎなどに終始する一周目こそよく目についてしまうものであり、こんなものが許容されているあたりも開発の人選に誤りがあったのではないかという理不尽を覚えるところだ。





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