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ページ公開:2018/02/13


Studyスタディ Questクエスト 計算島の大冒険


プラットフォームプレイステーション
開発志学社
発売志学社
発売年月日2000年 7月
ジャンルRPG
プレイ人数1人
セーブデータ1つ1ブロック


システム シナリオ グラフィック サウンド ゲームバランス その他
虐待的 壮絶な退廃感 極めて粗い 安い・薄い インド人向け 勉強嫌いの子ども促進機





・ゲーム概要

 2000年という、プレイステーション後期に岡山県の学習塾から発売された学習系RPG。
 小学校1〜6年生向けの問題が収録されたドリル的なデザインなのだが、具体的な内容を見て行くとそれは学習教材とゲームの悪いところだけを組み合わせたような虐待器具であった
 覚えが悪いか教え方が悪いかという議論は教育に関わるところどこにでもある話題だと思うが、本作に関しては教材としようものならツイッターで炎上するレベルの後者であることは確実である。


・ゲームと算数

 と、本作の内容を見て行く前に少しゲームと算数の関係性についての経験を述べてみたい。
 「ゲームばかりしていると馬鹿になる」とはよく使われる言葉だとは思うが、節度を持ってやる分にはゲームから算数の実用性を学ぶ場面が少なくない。
 HPやMPの形でいくつもの数字を見る必要のあるRPGなどは特にそうだ。
 HP500の時に150のダメージに何回耐えられるか、これから耐えられる回数を増やすにはいくらダメージを減らせばいいか。
 攻撃力200の時に攻撃力+50の装備と攻撃力+20%の装備のどちらがより有効か、この関係が攻撃力の上昇によってどう変化してゆくか。
 ダメージを(攻撃力-防御力)の減算で計算するゲームにおいて、攻撃力1.5倍の強攻撃と2回攻撃のどちらが、どんなときに有効になるか。

 子どもが自主的にこういった問題に気付くことができれば、きっと子どもはそこに喜びや自信という宝を作り出す。

 より踏み込んでゲームを製作することを考えてみると、例えばお互いの距離を測るために平方根が必要なことを学ぶし、3Dのキャラクター同士を向かい合わせたい場面では三角関数が有効なことを学ぶ、変数と方程式なんてのはむしろバリバリ日常的に使うことになり、問題解決のために適した手法を探すという訓練ができるわけだ。
 ひょっとしたら、ゴニョゴニョと記号を並べたものが思いもよらないことを可能にする様は魔法使いの呪文のようだなんて映るかもしれない。
 子どもの勉強嫌いの理由としては「何の役に立つか分からない」という文句が常だが、こういった形でなぜそれが大事なのかを学べばそんな文句は「好きなことのためになる」という動機付けに逆転してしまうのではないだろうか。
 まあ・・・元々ゲーム好きの子どもでないと反応は薄いかもしれないが、少なくとも子どもが遊びを通して多くを学んでゆくということはそう間違った話でもないだろう。

 ついでに蛇足であるが、子どもに課金ガチャを引かせる方はその前に確率と割合の違いをしっかりと学ばせて欲しい。・・・しっかりと学ばせて欲しい。

 さておき、そうしてゲームであることに加えて特に算数の計算をテーマとした本作は通常よりも教材としての効果を期待したいところなの・・・だが・・・。


出題方式

 本作はシンボルエンカウント制のRPG。3Dのフィールドやダンジョンを斜めに見下ろし、目的地へ向かいながら途中でエンカウントする敵から出題される計算問題を解く「スタディバトル」を繰り広げてゆくという内容だ。
 シンボルエンカウントと言えば移動やスニーキングで戦闘を避けられることが特徴的なシステムだが、残念ながら本作の敵キャラクターはランダムにポップしこちらに一直線に向かってくるパターンばかりなのでここに学習を促す要素は感じられない。
 ゲーム中には謎解きらしい謎解きもなく、本作の学習要素はただただ「スタディバトル」に集中しているわけだ。

 肝心の「スタディバトル」は、敵キャラクターが出題してきた問題に対する解答となるように「カード」を並べて提示してゆくという形式。
 基本となるのは「0〜9」の数字が書かれた「数字カード」で、高学年向けの難易度となるとこれに「小数」や「分数」を表すカードを加えて、それぞれを消費しながら数字を表現して回答してゆくこととなる。
 また問題には一定の制限時間が設定されており、時間経過とともに敵の妨害が行われるほか不正解やこれを超過した場合は戦闘に敗北しペナルティを受けることとなる。


  _,._
 (;゚д゚) ・・・!?



 おわかりいただけただろうか。「時間経過とともに敵の妨害」も気になる所だが、「それぞれを消費しながら数字を表現」という一文はさらに問題であり・・・

 つまり、本作はたとえ問題が解けようと回答権がなければ「不正解」するしかない設計なのである
 それも、それぞれのカードの所持上限はキャラクターのLv数がそのままキャップになり、かつ本作はLv1からゲームが始まる設計。ゲーム開始直後に2問同じ解答の問題が続けば即・強制不正解の洗礼を受けるわけだ。
 横暴である。弾圧である。虐待である。

 ゲームとしてはこまめな補給を強いられ進行を妨げる問題点であるし、教材としては子どもを抑圧して発言させない大問題である。
 カードの入手手段については、0〜9の数字カードは島に点在する「Dr.ナンバーのお店」から1セットずつ購入でき、小数や分数を表すカードは別の「トレードハウス」という施設で1枚ずつ入手する形となる。
 これらで用いる資金「トレードコイン」は島に点在しているものを拾い集めたり、撃破した敵から獲得したりという形で入手してゆくこととなる。

 ・・・どこから指摘すればいいのか迷うが、先ずはDr.ナンバーに「減った分だけ補充させてくれ」と思うところだ。
 幼児〜小学一年生向けの難易度を通してこれを見てみると、第一世界では全体を通して一桁の数字の「どちらがおおきい?」と「どれがいちばんおおきい?」という問題が続くので当然0を消費することはないし、7・8・9あたりのカードは目立って消費が激しくなる
 回答がダブるほど答えづらくなるシステムだというのに解答が偏る問題をブチ込んでくる意地悪さに、これによって全く減らないカードが生まれるのにカード1セットをまとめて購入させるアコギさ。子どもに向けてとっていい態度ではない。
 ちなみに第二世界は「どちらがちいさい?」と「どれがいちばんちいさい?」という問題になって消費量が逆転し、どちらか片方が分かればもう片方も自然と分かる内容なので学習効果があるのかも怪しいところだ。
 最後となる第三世界では一桁の足し算・引き算に加えて「20までのたしざん・ひきざん」という問題が現れるが、これは十いくつにいくつを足す・引くという繰り上がりや繰り下がりのない問題で十の位が1固定、学習効果もそうだが1のカードだけ極端に集中して消耗してゆくことに頭痛が収まらない。

 一応、使い切ったカードを最大まで補充してくれる残機のような存在として「回復カード」というものもある。
 こちらは「シスターヒールのお店」でランダムに一種類のみが販売されているほか、先の「トレードハウス」で小数や分数のカードと同様に獲得することもできる。
 「トレードハウス」の仕組みは、四角形のテーブルを囲んで4人が参加し、早い人から自分のカードを提示、後手に回った人は欲しいカードが出た時に不要なカード一枚を提示してそのカードと取り換えることができ、全員が交換するか交換しそびれるかするまでを1セットとして繰り返してゆくというもの。

 ・・・意味が分からない

 要約してみれば、商品がランダムかつリアルタイムに取引される変形ショップである。
 べつに4人参加することも交換をセットごとに区切ることも「スカ」のカードを混ぜてくることも戦略的な意味のあるものではなく、単純に運任せでせわしなく面倒を増やしただけのもの、ゲームらしさの上っ面を真似た偽物でしかない。
 ・・・ここで思い出してほしいが、回答に必要な小数や分数を表すカードは「トレードハウス」で1枚ずつ入手するので高学年向けの難易度では問題を解く前に「トレードハウス」に入り浸りチマチマとカードを集めるよう促していることとなる。
 横暴である。弾圧である。虐待である。

 この設計はゲームの本文がどこにあるかを失い時間稼ぎに終始しただけの水増しであり、また計算問題を解く問題集としては文章問題をマンガで出題するような気を散らすだけのものであるだろう。
 また取引に必要な「トレードコイン」の入手方法についてだが、これはマップ上では空中に浮いているか宝箱に入っているかしており、入手するためにはジャンプして触れるか付近の落とし穴を飛び越えるかというアクションが必要とされる。
 ほかに敵のシンボルを飛び越えて戦闘を回避する目的でもジャンプが有効であり、このジャンプアクションにはゲームとしての体裁を高めるという狙いが見え隠れする。

 いやそれ勉強関係ないよね

 アクションの上手い下手が計算問題の出題量や回答権の余裕に影響するのである。算数にそんな話があるわけがない
 本作が3Dのフィールドやダンジョンを斜めに見降ろした視点を採っていたのは高度や立体、座標といった問題を扱うためでは全くなく、この申し訳程度のジャンプアクションへ立体感を持たせるためだったのではないかといぶかしむところだ。
 詳細は後述するが落とし穴の仕掛けなんてものがあれば当然そこにはペナルティが存在し、これを回避する手段としてアイテムや仕掛け等は用意されていないため、計算能力と同時にアクションへの慣れもなければ本作の攻略はままならないというわけである。

 また斜めに見降ろした視点は視野が狭く、というのに本作は広大なフィールドを歩き回って「奥義の書」というキーアイテムを集める必要がある設計となっている。
 「奥義の書」とは、そのフィールドで出題される問題の解き方が書かれた手引き書で、例えば「どちらがおおきい?」なら1個から10個のリンゴの絵が描かれていて後のものほど大きいよ、という具合となっている。並んだリンゴなら大きいじゃなくて多いじゃないのか
 問題を解く助けとなるほか、これを獲得して学習していることが「塔」というダンジョンに挑戦する条件ともなっているので、プレイヤーは先ずフィールド内のどこかの民家に眠っている「奥義の書」を探して敵の群れの中を突っ切ってゆく事となるわけだ。

 ・・・そう、フィールドの上でも敵はバリバリ出現するので、問題の解き方を手に入れるためにはその問題の解き方を身に付けている必要があるわけである。
 まあ復習を目的としたドリルなのだと思えばそう間違った話でもないかもしれないが、カップ焼きそばのソースを入れてからお湯を切るというか、用を足してからトイレに入るというか、端的に言って既に手遅れなのも確かなところだろう。

 さて、この辺りで話題を変えよう。「スタディバトル」における敵の妨害について。
 出題された問題に不正解したり制限時間を超過したりすると戦闘に敗北しペナルティを受けることとなるのだが、また時間経過によっても敵は妨害攻撃を繰り出してくる。
 妨害攻撃とは何かというと、手持ちの数字カードを破壊してくるのである
 なにそのボンビラス
 しかも攻撃には特定のカードを集中して破壊するという「斧」、全種類のカードを破壊するという「槍」、といった複数のバリエーションが用意されており、そのダメージも1枚2枚では済まず一撃で十数枚ごっそり持っていくような極悪な物がゴロゴロしている。
 あげく、敵キャラクターによってこの妨害までの猶予には幅が与えられているようで、「ハサミおとこ」や「ビッグマン」というキャラクターは登場直後に妨害を繰り出して回答権をはく奪する始末
 横暴である。弾圧である。虐待である。

 これはもはや暗算が遅いことへのペナルティーではない。これはゲームとして敵にエンカウントしてしまったことにペナルティーを与えているものである。
 また、「カードを並べて答える」というUIにも問題がある。
 ひとつはそもそもの出来が悪い点。カードを選択する方向キーを強く押し込むとすぐ「押しっぱなし」と感知してカーソルが走るし、選択の端まで行くと反対側にループしてしまうので誤操作が起きやすい。
 これを避ける意味で慎重に操作しようとすれば、当然操作に時間がかかり、その間に妨害攻撃を繰り出されるわけだ。

 もう一つは、3桁×2桁の暗算など桁数の多い問題において、「上の桁から数字を順番に入力する必要がある」という点だ。
 おそらく、下の桁から入力するスタイルであれば筆算で馴染みのある入力方法だろう。繰上りが起きたとしても現在の桁の数字を確定させながら着々と進むことができる。
 が、逆となるとどうなるだろうか。入力しながら計算しようとすると下の桁で繰上りが発生する度に上の桁に戻って入力し直す手間がかかり、時間はかかるし混乱もする。
 この入力方法に対処するには暗算でポン、と答えを出せなければならないわけだ。
 説明書に掲載されている5ケタ÷3ケタの暗算(あまり有り)などはインド人くらいじゃないと答えられないんじゃないかと投げ出すところだ。

 投げ出す前に、最後に「敵に敗北した場合のペナルティ」について見ておこう。
 ここまで触れていなかったが本作はゲーム進行全体に「日数」という制限があり、この制限内に攻略しなければならない設計となっている。
 敵に敗北した時のペナルティとは、つまりはこのゲーム内時間が進行してしまうというものなのだ。
 不正解を重ねればゲーム全体の猶予を失いゲームオーバーを迎えてしまうというわけだが・・・では、これを回避するにはどうしたらよいだろうか?
 結論から言うと「不必要な戦闘は避ける」ことが大事だろう。正解して得られる経験値でレベルアップしてゆくことは大切だが、かといってレベル上げに取り組んで単純ミスや敵の妨害攻撃によって回答不能という状況に陥ってはならない。
 この攻略方法を後押しするような仕様がまだある。「エンカウントした時にも一定の時間が進むこと」や、先に挙げた「落とし穴に落ちても時間が進むこと」である。
 学習用のドリルであるとしたら繰り返し問題を解いて復習することはむしろ推奨されるはずだが、本作の場合はこうして繰り返し戦闘することは実質的にペナルティを重ねることになると真逆の設計を採っているわけだ。
 横暴である。弾圧である。虐待である。

 本作は何の目的で作られたのだったろうか。計算の学習を促すためではなかったのか。
 ところが実態はこうして計算問題を解くことをゲームの仕組みで妨害し、ゲームとして攻略するべき内容はRPGらしからぬジャンプアクションと暗算能力、そして「トレードハウス」に入り浸る廃人力という有様。
 難しい問題にじっくりと取り組んで解き方を見つけるような喜びも、冒頭に挙げたようなゲームと算数の関連性も全く取り入れられておらず、本作はゲームとしても学習教材としてもマイナス点を付けたくなるような問題作なのである。


・ストーリー

 数や計算を操る「大魔王ランダム」の出現によって荒廃してしまったはるか遠くの島国。
 それを救えるのは「計算能力」を身につけた者だけであるといわれている。
 ある日、その島国に一人の子どもがたどり着いた・・・

 (説明書より抜粋)

 ゲーム開始直後に6回も会話し直す必要がある「そんちょう」の言によれば、この島国は「せかいにきこえたちょうきんだいこっか」であったが大魔王ランダムの手によってすべての住民が数を計算する能力をはく奪され文明を崩壊させたのだという。
 住民曰くその日取った食事の回数や作物の生産量すら数えられず、一桁の足し算が書かれた奥義の書ですら理解できないという始末で、人間らしい生活は出来ているものの実態としてはほぼ原始生活に還るレベルの大崩壊であったと思われる。
 RPGの魔王というと色々代表者が浮かぶと思うが、これほど世界を崩壊させ復興する力すら奪い去った外道はそう並ぶ者はいないのではないかと震えるばかりである。

 まあ、「トレードハウス」などで取引が行われている通り実際のゲーム内ではご都合主義がまかり通っているのだが。
 物語は大した起伏もなく、ダンジョンを攻略してボスを倒して移動して・・・を繰り返すくらいなので期待できる点は特にない。


・まとめ

 出題方式の項の中でまとめた通り、本作はマイナスを付けたいくらいの内容である。
 学習塾発の家庭用ゲームというのは先進的な試みと言えなくもないが、この設計では奇をてらっただけのごまかしというところだろう。
 音楽やグラフィックの水準も低く、魅力となる点がほぼ見いだせない一本である。

 また、蛇足だがもう一つ指摘を加えよう。「4.7-2.7=?」のような、解答の小数第一位が「0」となる問題だ。
 本作はこれに「2.0」と答えると誤りとなりペナルティを受けるのである。正解は整数の「2」とのことだ。
 これについては、類似の話題が2016年末にツイッターで過熱していたのが記憶に新しいので一つの記事を案内する。
 ねとらぼ:3.9+5.1=9.0は減点対象……理由を文科省に聞いた 「減点は教員・学校の裁量次第」

 今回やたら「虐待」という言葉を用いたのは茂木健一郎博士の言に同意を感じたためだ。
 この問題については本作にとどまらず日本の教育現場に20年近く・・・おそらくはもっと長くにわたってはびこっているということのようである。
 高等教育無償化なんかよりこっちの話題をもっと活発に取り上げてほしい所だが、まあこの場でこれ以上あれこれのたまうのは場違いなので控えよう。
 強いてまとめれば、「本作は子ども向けながら子どもには遊ばせたくないゲームである」というところである。





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