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Julyジュライ


プラットフォームドリームキャスト
開発フォーティファイブ
発売セガ
発売年月日1998年 11月
ジャンルアドベンチャー
プレイ人数1人
セーブデータ1つ4ブロック、3ファイルまで


システム シナリオ グラフィック サウンド ゲームバランス その他
手間が目立つ 創作 モブ全員に立ち絵あり 重苦しい 簡素 ドリームキャストのロンチタイトル





・ゲーム概要

 ドリームキャストのロンチタイトルのひとつであるテキストアドベンチャー。
 今を遡ること20年前、

 「1999年、7の月 恐怖の大王が空より来るであろう アンゴルモアの大王を蘇らせ その前後、火星が幸運にも統治する

 というひとつの詩が人類滅亡の予言だとして一大ブームになっていた。
 かの有名な「ノストラダムスの大予言」である。

 ブームを煽った筆頭は「MMR」だと思うが、実際この「予言」は世紀末の日本で大いに騒がれうさんくさい商売やらグッズやらが飛び交ったものである。
 創作作品にもこのネタは取り入れられており、「名探偵コナン」のトリックであったり「ケロロ軍曹」のキャラクターであったりといった形で当時の騒乱の跡を見ることができるだろう。
 本作「July」は、この「予言」を題材に「全ての謎を明かす」というコピーでリリースされた一本だ。
 キャラクターデザインはトニーたけざき氏と梅津泰臣氏、なんともサブカル感ある本作の内容は果たして・・・?


・ストーリー

 「July」の世界観
 生殖機能を持たない、突然変異の人間――セックスレス体。その存在はごく一部の研究者の間でしか知られていない。
 セックスレス体は、子孫を残すことが出来ないという、種として致命的な欠陥を持つ。
 また個体によって、種々の先天的なハンディキャップを背負っている。
 しかし、それを補って余りある能力を持ち、自殺遺伝子の作用が不完全なため、不老不死である可能性が高い。
 また彼らは、例外なく非常に高度な知能を有しているのだ。
 セックスレス体の存在は、遺伝子の未知の部分に刻みこまれた、次世代の生命体の設計図が産みだしたものと思われる。
 その謎を解明すれば、莫大な富を築くことが可能なのだ……。

 その点に目を付けたNAX製薬は、NAXグループ総帥ジーン・レイブン直々の命の下に、密かに研究を行ってきた。
 NAXグループは現総帥ジーン・レイブンの代になり、急速にその業績を伸ばしてきたイギリスの財閥で、傘下に多くの企業を有している。
 例えば、今や自衛隊の兵器の70パーセントを占めるNAX重工、財閥の中心的存在であるNAX製薬がある。
 ただし、その経営方針は少々強引で、ライバル企業の人材を次々引き抜き、対抗商品のダンピングで企業体力を弱らせて吸収合併したり、環境保護制度が整備されていない国で環境汚染を引き起こしている。
 火のないところに火種をもちこみ、そしらぬ顔をして騒ぎを丸くおさめる……それが、NAXの常套手段なのである。
 当然ながら、情報操作は完璧である。
 巧みなマスコミ操作で表立って叩かれることは少ない。
 だが、いくつかの環境保護団体や消費者団体に目を付けられており、新興宗教団体インゴットなどは、公然とNAX批判を繰り返している。

 (勁文社 「ドリームキャスト必勝法スペシャル July」より抜粋)

 キャラクター紹介
 高村誠(たかむら・まこと/19歳/男/主人公)
 西海大学文学部一年生。空手三段。
 一見したところ二枚目だが、中身は三枚目。
 行動力はあるが、単純。
 コンピュータを使えない今時珍しい大学生。

 誠のプレストーリー
 6年前、ロンドンでのバス爆破テロに遭遇する。
 同時に、妹を失い、母親もまた植物人間になってしまう。
 恵の死体も見つからないほどの酷い事件は、誠に強い喪失感と、悲しみだけを残した。
 そして、母の見舞いどころか妹の葬儀にさえ現れない父に、誠は反発していく。
 現在、大学生となった誠は祖父と暮らしている。
 テロ事件の慰霊祭が近づき、妹のことを思い出して感傷に浸る日々を過ごしていた。

 ヨシュア(‐/29歳/男/主人公)
 メキシコ人。セックスレス体。
 その特異体質により痛みを感じない。

 ヨシュアのプレストーリー
 幼い頃、何者かによって両親を虐殺され、拉致される。
 それ以来、研究所での過酷な人体実験に耐え続けるが、ある事件を機に研究所を脱走。
 その後、追っ手により幾度となく死に直面しながら、たった一人で生き延びてきた。
 苦境の中で彼を支えてきたのは、復讐の誓いだけだった。
 すでに3人への復讐を果たし、残りは4人。

 (説明書より抜粋)

  _,._
 (;゚д゚) ・・・えっ?

 というわけで、本作の世界観は現実世界とは様々なかい離のある創作であり、物語の主題は巨大企業の暗躍による新人類との淘汰というSFであり、キャッチコピーである「全ての謎」はこの世界観のもと2人の主人公が抱えた秘密のことである。
 ノストラダムスの大予言は、ほぼ無視されていると言って問題ない

 一応、物語の途中で死亡した時唐突に「この男が俺にとっての恐怖の大王だった・・・」などといううわ言をのたまったりバッドエンドルートで人類が滅亡したりするがまあその程度だ。
 この滅亡の原因がNAX社のミサイルであるあたりに「恐怖の大王」を意識していたのかもしれないが、当時の騒乱の中「起こりうる現実」のシミュレーションを求めていた層にとっては肩透かしもいい所の内容だったと言えるだろう。


・ゲームシステム

 本作は高村誠とヨシュア、2人の主人公の物語を切り替えながら追ってゆく形式だ。
 一見全く無関係に見えるこの2人だが実際は共にNAXに因縁を持っており、打倒NAXを狙う第三者とそれぞれ異なる方向からアプローチを重ねることとなって、プレイヤーは多角的に物語を読むことで物語全体の構造を理解してゆくという設計となっている。
 「パラサイト・イヴ(原作小説)」や「弟切草 蘇生編」など、当時なかなか人気のあった形態と言うところだろうか。

 ・・・とはいえ、実際にプレイしてみるとこれが結構ダルい

 というのは2つの異なる物語を読み進めるため間が空いて話を忘れがちなことや、大学生の日常と逃亡者の復讐劇というそれぞれの作風にギャップがあって頭の切り替えが大変なこと、両方を読み進めなければストーリーが進捗しないことといった宿命と言える点もあるのだが・・・。

 何より、本作の進行が「ゲームの舞台になる首都圏のマップの中で「ロケーション」を選択してイベントを探すという形式」であることが厳しい。
 このロケーションは複数ある中から任意に選択できるものの、実態として大半は本筋に全く関係のないモブの独り言を聞かされて終わり、という「ハズレ」でしかないのだ。
 ロケーション移動による時間の経過などペナルティの概念もないので、これは本当にただの手間でしかない。
 まあこの内容でスケジュールの管理要素があっては御免だが・・・2つの物語を交互に読み進めるため間が空きがちな本作において、さらに時間を空費させる仕様を組み込んだことはやはり問題である。

 せめて、それぞれの主人公でモブの位置や行動を見比べてサイドストーリーを追うような面白みがあればと思うが、実態としては全編通して公園や駅前から動かないなど大した変化がない。
 「終末が訪れるまで人々は変わらない日常を過ごすものだ」というメッセージなのかもしれないが、こうして登場するモブキャラクター ―コレクション要素としても設定された総数150人にも上る登場人物― は、そのほとんどがさほど活かされずゲーム要素の水増しに終わったのではないかといぶかしむところである。


・モブ

 というわけで、このゲームには期待できる部分がほぼ無い。
 そんな中でも強いて挙げれば、くだんの総数150人の人物のデザインが本作の見るべきところになるだろうか。
 これらの人物は全員立ち絵付きであり、子供から大人まで、美形から不美人まで幅広い「人物」がトニーたけざき氏と梅津泰臣氏の両名によって描かれているのだ。
 一部はステレオタイプや奇をてらいすぎたきらいもあるが、モブであっても記憶に残るような個性派が揃っている。

 例としては
 夏だというのにタートルネックとジャケットを着こみ怪しげな闇商品を販売する男ラーハルト・ロウ、
 白衣の下は紫のシャツとバラの刺しゅう入りのネクタイ、陽気な性格が伺えるふとっちょ研究員サンチョ・ドミンゴ、
 坊主刈りに眼帯、鋭い眼光をギラつかせる謎の男ヘンリー・カリブ(ただのモブ)、
 警察署などに現れ作中の事件の背後関係について意味深な見解を展開する黒づくめの男グレッグ・ノイマン(ただのモブ)、
 新興宗教の縁起物を割り引いて叩き売る、いやに人当たりのいい女性アウリン・ライカ、
 梅津氏のお気に入りだという、ちょっとずる賢い金髪美少女アイシャ・コレット、
 花柄の腕抜きと縛り髪、一目見て年季を直感させる熟練ホテル従業員相馬トキ子、

 などなど。ビジュアルの説明力不足を痛感するが、こればかりは百聞は一見にしかずというところ。
 こういったモブは物語上ほとんど役割を持っていないのだが、立ち絵付きで豪華にそろえたことによって本作の、より言えば世紀末の混沌とした空気を直感的に表現していると言えるだろう。
 キャラクターデザインの参考といった形でなら、とても見ごたえが有るはずだ。


・まとめ

 混乱し浮ついた「世紀末」の中、あまり練り込まれずに世に出されたといった調子の一本。
 ドリームキャストのロンチタイトルとはいえモブの立ち絵が多い事を除いて新世代ハードの強みと言えるものが見当たらないし、システム面では無駄に読み進めづらく、肝心の内容もイマイチ意外性に欠け盛り上がらない。
 少しバッドエンドについて触れたが、本作の分岐は誠編の好感度と物語終盤の選択肢いくつかで分岐するくらいであり、ほかの選択肢には間違えたら即ゲームオーバー行きが散見されるとこれも簡素なつくりでしかない。
 お互いの選択が相互に影響する「街(チュンソフト)」のような作品でもないのだ。

 当時の社会に思いを馳せる標本であったりモブキャラクターデザイン集であったりといった楽しみ方が出来ればおすすめだが、やはりゲームとしての面白さの土台に乏しい作品であることは否めないだろう。





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