サイトトップ/ゲームレビュー/リングオブサイアス


RING OF SIASリングオブサイアス


プラットフォームプレイステーション
開発アテナ
発売アテナ
発売年月日1996年 4月
ジャンルテキストアドベンチャー
プレイ人数1人
セーブデータ1ブロック、3ファイルまで


システム シナリオ グラフィック サウンド ゲームバランス その他
質素 良くも悪くも王道的 想像力を刺激 幻想的だが・・・。 一周読破まで一時間前後? サントラ・ミュージックテストなし





・ゲーム概要

 プレイステーション初期にアテナから発売されたサウンドノベルゲーム。
 主人公の魂が封じられた「指輪」と悪の「魔女」をめぐる正統派ファンタジーを描いた内容で、システム上の特徴としては作中に現れる選択肢が登場人物の行動や発言では無く物語の展開であるという点が挙げられる。
 「演出(ディレクション)」と表現されたこの特徴はパッケージ裏でも想像と創造…このふたつが、ここで試される。と推されているのだが、今一つピンと来ないその内容は果たして・・・?


・導入部

 禁じられた神の秘術、すなわち生命創造の研究を完成させた魔女ベアトリスは、大陸征服の第一歩として、闇より創り出した軍勢を、神聖都市ジュールへと差し向けたのだった。
 奇しくも、ジュールの第二王子サイアスが、恋人でもある女戦士ラディアとともに、魔女の城へと潜入する直前の出来事であった。
 サイアスとラディアを欠いたジュールは、歴戦の勇士ガランの奮闘もむなしく、ついに陥落した。
 そしてサイアスも、ラディアが囚われの身となってしまっては、剣を捨て、魔女の捕虜となるしかなかったのであった。
 それから、三年の月日が流れた……

 (説明書より抜粋)


 物語は、魔女の城から逃げ出した一匹の怪物によって幕が開ける。
 怪物は間もなくして大勢の追手によってその生涯を終えるのだが、その亡骸が身に付ける「指輪」こそがこの物語の主人公であるのだ。
 指輪には魔女ベアトリスの手によって捕えられたジュールの第二王子サイアスの魂が封じ込められており、以来この指輪は身に付けた者の意思を奪いサイアスの肉体とする「サイアスの指輪(RING OF SIAS)」となっているのである。
 やがて亡骸から拾いあげられた指輪は様々な人間の手を渡り、いつしか魔女打倒に燃える戦士が指輪を手にした時に物語は終幕へ向かう・・・という流れとなっているわけだ。


・登場人物

 本作はプレイヤーの選択によって様々に物語が分岐する構造であり、登場人物もまた物語に合わせて出番や背景が変化することとなる。
 しかしどの物語においても人物の役回りというのはおおむね共通しており、ここではその中でも特に重要な役割を持つ人物を何名か挙げておきたい。

 ・サイアス
 神聖都市ジュールの第二王子。大陸一の剣技と≪聖なる言葉≫の使い手として三年前に魔女ベアトリスの討伐に向かったが、恋人ラディアを人質とされてその魂を「指輪」に封じられた。
 その後の指輪は身に付けた者の肉体を奪う「サイアスの指輪」となって人々の手に渡ることとなり、魔女はこの指輪が屈強な者の手に渡りサイアスの復活に繋がる事を恐れている。
 ゲーム内においては、サイアス自体が作中最強の剣士かつ聖なる呪文使いとして魔女に対する切り札である一方、「指輪」もその性質や重要性から魔女の目を引くトリックとして活躍することとなる。
 他の登場人物の活躍によっては、作中ほとんどサイアスの出番がない事も・・・?

 ・ラディア
 サイアスの許嫁にして凄腕の女剣士。ベアトリスとはただならぬ因縁があり、三年前にはその点を利用されてベアトリスの手に落ちた。
 現在もサイアスへの人質として監禁されており、ベアトリスにとっての最後の切り札となっている。

 ・ガラン
 神聖都市ジュールにおいてサイアスの右腕を務めた剣士。三年前にはサイアスの留守を守るためにジュールに留まったが、四天王の総攻撃を受け奮戦むなしくジュールは壊滅することとなった。
 その後は奇跡的に生き残り、行方不明となったサイアスを探す旅を続けている。優れた剣技に加えて≪聖なる言葉≫の使い手でもある、魔女に対抗しうる戦士の一人。

 ・ウェイン
 大陸最大の王国セルダリアの騎士。近日中にリイアという女性との結婚を控えており、彼女に送る指輪を探すうちに「サイアスの指輪」と巡り合う。
 当初はただの美しい指輪と捉えていたが、やがて指輪の秘密に触れたことでその運命を大きく変えてゆくこととなる。
 サイアスに次ぐ主人公といった重要人物で、指輪を手に魔女へ戦いを挑む事もあれば婚約指輪を守るために陰謀に立ち向かうこともある。

 ・オスヴァルト
 大陸最大の国セルダリアの大臣。大臣という立場にありながらその裏では魔女ベアトリスに取り入っており、様々な暗躍を行っている人物。
 三年前の神聖都市ジュールの壊滅にも関与しており、今回は魔女の命を受けて「指輪」の捜索に焦っているようだ。

 ・バジオス
 セルダリアの外れにある≪闇のしずく≫通りをまとめる錬金術師。
 かつてはベアトリスらと共に研究を行う仲間であったが、ベアトリスが闇の秘術に手を出して以来は決別している。

 ・ロウジア
 セルダリアの外れにある≪闇のしずく≫通り出身の魔道士。
 ベアトリスの強大な力に魅せられて以来≪闇のしずく≫通りの住人である事を捨ててベアトリスの配下として暗躍している。

 ・ロージム
 セルダリアの外れにある≪闇のしずく≫通り出身の錬金術師。
 かつてはベアトリスらと共に研究を行う仲間であったが、ベアトリスが闇の秘術に手を出して以来はベアトリスを止めるために自身も闇の秘術によって「人造人間」の研究を行う道を選んだ。

 ・ベアトリス
 錬金術の研究によって闇から生物を創造する秘術を得、これによって大陸の支配を企む「魔女」。
 トカゲと人間の特徴を持つ「ゲルゴア」を多数従えるほか、
 女性の姿を持つ植物の化身「囁き」、
 青年の姿を持つ吸血鬼「唸り」、
 少年の姿を持つ影使い「呟き」、
 老人の姿を持つ音波使い「叫び」、
 の4体の闇の者を「闇の四天王」としてわが子のように扱っている。
 また口ずさむだけで標的に破滅をもたらす≪闇の言葉≫の使い手でもあり、普通の人間では触れることさえままならない。

 なお、本作の登場人物は目の周辺をアップにしたカットインで表現される。
 大まかな人相は伝わるが全身像は想像に任せた形で、文章が持つ想像する楽しみを重視したデザインだと言えるだろうか。


・スタッフ

 さて、システム面の話に入る前に一応パッケージ裏に書かれたスタッフの紹介をしておきたい。
CONCEPT&SCRIPT手塚一郎 (代表作:「ドラゴンバスターの本」、「小説 ファイナルファンタジーIV」 など)
MUSIC斉藤恒吉 (「クライズラー&カンパニー」キーボード担当)
THEME MUSICクライズラー&カンパニー (クラシックなどのミュージックバンド。代表曲:「愛のよろこび」、「To Love You More」 など)
CHARACTER DESIGN高橋政輝 (代表作:「小説ウィザードリィII 風よ。龍に届いているか 」イラスト、「聖剣伝説 LEGEND OF MANA」アーティファクト・CGアイテムデザイン、など)
(※敬称略、代表作は本作発売後のものを含んで記述)

 ・・・いつものフラグのような気もするが、軽く流してシステム面について見て行こう。


・演出(ディレクション)

 本作のシステム面での特徴は、作中に現れる選択肢が登場人物の行動や発言では無く物語の展開である、という点である。
 先ずは具体例を見てみよう。「ゲルゴア」の肉体を奪って逃げ出したサイアスの前に追手たちが現れるシーンで発生する、作中最初の選択肢だ。

 何匹もの化け物が目に入る。
 奴らが手にしていたのは…
 T:研ぎすまされた剣だった
 U:矢をつがえた弓だった
 V:ねじくれた木の枝だった

 ・・・と、主人公が選択できない前後の状況、「展開」がプレイヤーの手に委ねられているわけだ。
 とはいえこれは何を選んでもこの場から助からないフレイバー的な選択肢なので、もう一つ例を見てみる事にしよう。
 その後亡骸から拾いあげられた指輪が、騎士ウェインの婚約指輪として買い上げられたルート。遠出をしたウェインと婚約者リイアが宿屋に泊まった時の選択肢だ。

 そのふたりの姿を、建物の蔭から見つめている男がいた。
 それは…
 T:ひとりの旅人だった
 U:黒い法衣に身を包んだ老人だった

 ・・・この選択肢によって、ウェインは全く異なる二人の人物と出会うこととなる。
 一人は、主サイアスを探して旅を続ける戦士ガラン。もう一人は、魔女ベアトリスの命を受けて指輪を手中に収めようと画策する魔道士ロウジア。
 その後のウェインがどのような運命に巻き込まれて行くかを決定づける重要な選択肢であり、物語の展開はプレイヤーの手にゆだねられているというわけである。


 ・・・とはいえ、本作の世界観において「魔女ベアトリス」は絶対的な黒幕として君臨している。
 物語が闇の者との対決になっても指輪の争奪戦になっても最終的には「魔女ベアトリス」を倒して決着という流れに収縮することとなっており、この結末はどんなルートを選んでいても変わらないようだ。
 プレイヤーに物語がゆだねられたサウンドノベルとしては、バッドエンドも無く毎回同じ結末に終わるというのは少々遊びがいに欠ける設計かもしれない。
 また、魔女のしもべとして設定されている「闇の四天王」の扱いもあまり良くない。
 というのは、魔女ベアトリスの前座である四天王は全員一通り登場することが決まっており、一体当たりの出番が短く抑えられがちなのである。
 そのうえで敗走して復讐に燃える・・・といった展開も無く、だいたいは登場直後に攻略法を見切られて一刀両断、という流れなのがなんともやるせない。

 また、サウンドノベルとして見た場合はその機能にも物足りないものがある。
 ページ戻し機能(章内のみ)やセーブ機能こそ備えているものの、既読スキップ機能や選択済みの選択肢をチェックする機能、エンディングコレクション機能といったユーザーサポート機能が無く繰り返しのプレイが不便な問題があるのだ。
 特に選択肢については説明書内でゲームの隅々まで楽しむ為には、選んだ選択肢をメモしておくのも良いでしょう。という非常にアナクロな解決策が推奨されている状態である。


・音楽

 また、蛇足として「クライズラー&カンパニー」が手掛けたという音楽についても触れておきたい。
 幻想的な音色を持つ音楽の数々はいずれも「リングオブサイアス」の世界観を淡く彩るもので、思わず文章を読む目を止めて聞き惚れてしまうほど。
 なのだが・・・。
 なのだが、そうして音楽に聴き惚れているとすぐに音楽が終わり、無音の世界が訪れる。
 そう、このゲームの音楽はよりによってループ機能に対応していないのである

 他人の肉体を奪った指輪が孤高に草原を駆ける時の一曲、出会って間も無いウェインとガランが友情を確かめる瞬間の一曲、周回を繰り返すうちに期待感を高めて行くサイアスのテーマ、と音楽自体は物語に合った名曲ぞろいであるものの、たった一つ「ループ機能に対応していない」という点がどうにもこうにも口惜しい。
 「BGM」としては、致命的な難点を抱えていると言えるだろうか・・・。
 また本作にはサウンドトラックや、ミュージックテスト、ゲームCDを音楽CDとして聞く機能(?)、のいずれも無いため、気に入った音楽を好きな時に聞くというのも難しい話である。


・まとめ

 「持ち主の肉体を支配する指輪」というどこか古典的なモチーフを正義の剣士と悪の魔女の対立を通して描き、サウンドノベルゲームとした本作。
 その物語は様々に分岐しながらも最終的には魔女の討伐によって決着を迎えるという良くも悪くも王道的なもの・・・あるいは正に、回る指輪のように球を描いたものであり、この点で少々人を選ぶだろうか。

 ストーリー一周当たりの時間はおおよそ一時間程度にまとまると思われるので、ファンタジー的な世界観が好きで、予定調和的な物語に抵抗が無く、夜寝る前などの余暇時間に楽しみを探している人には気に合うだろう一本である。





・関連作品

・「アランドラ」PSの見下ろし型2DアクションRPG。
手塚一郎氏がゲームシナリオを手掛けた。
・「聖剣伝説 LEGEND OF MANA」「聖剣伝説」シリーズ外伝。PSのベルトスクロール型2DアクションRPG。
高橋政輝氏がアーティファクト・CGアイテムデザインを手掛けた。


サイトトップ/ゲームレビュー/リングオブサイアス