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キャット・ザ・リパー 13人目(にんめ)探偵士(たんていし)


プラットフォームPS・SS
開発トンキンハウス
発売トンキンハウス
発売年月日1997年 7月 (ほぼ同時発売)
ジャンル推理アドベンチャー
プレイ人数1人
セーブデータ1ブロック、3ファイルまで(PS)
12ブロック、3ファイルまで(SS)


システム シナリオ グラフィック サウンド ゲームバランス その他
わかりやすい 分岐はあるが・・・? ブリキ人形 ミステリー系? ヌルい 原作:「13人目の探偵士」





・ゲーム概要

 ミステリー小説家、山口 雅也氏の代表作、「キッド・ピストルズ」シリーズの変り種「13人目の探偵士」をゲーム化してしまった一品。
 体裁としては会話や移動のすべてをムービーで行う「インタラクティブ・ムービー(シネマ、ドラマ、etc)」系のゲームであり、死体の存在する密室の中で目覚めた男の奮闘を描いた内容である。


・ストーリー

 まず、「猫」から話を始めよう。1972年、世界を震撼させた物理学者ハイゼンベルクの不確定性原理と、それに続くシュレディンガーの「密室の猫」をめぐる愉快な思考実験についてである――。

 とは言ったものの、このページで量子力学に関する論をながながと展開して訪問者の不興を買う愚は避けなければならない。
 かいつまんで説明すると、本編の世界はパラレル・ワールドの英国である。我々の世界ではフィクションの中でのみ活躍する「探偵」が高い地位と名声を持って活躍する世界だ。
 反面、警察はストリート・ギャングのような連中でさえ採用されてしまう堕落っぷりを見せていたが、まぁそれは別の話。
 現在、そんな「探偵」たちばかりを狙った連続殺人事件がパラレル・ワールドの英国を騒がせており、本作はその事件にまつわる物語を舞台としている。
 猫と13人の狩人の童謡になぞらえながらさまざまな方法で探偵を殺害し、現場に「猫」にまつわる遺留品を残してゆくことから、「切り裂き猫(キャット・ザ・リパー)」として恐れられる殺人鬼。
 今までに多くの探偵たちが「猫」に挑んだが、はなはだしきは逆に返り討ちにあう始末で、現在までに11人もの探偵を殺害しながら未だ手がかり一つ見せない不気味な存在である。

 ・・・主人公である「私」が目を覚ましたのは見知らぬ密室であった。ひどい頭痛を覚え、何一つ思い出せないまま辺りを見回し・・・「Catis」という文字を残したまま無残な姿で亡くなっているクリストファー・ブラウニング卿を目にする、というところから、今回の物語は始まる。


・キャラクター

 ・クリストファー・ブラウニング卿
 本作の被害者。
 現在最高の探偵ポイントを誇る「探偵皇」であり、近年は「猫」のしっぽを掴もうと躍起になっていたという。
 死亡時の状況は密室でのどを切り裂かれいた、というもので、同じ部屋にいた主人公に疑いがかかるのも当然といえる状況であったが・・・?

 ・ヘンリー・ブル博士
 原作シリーズファンおなじみの探偵士。
 いちおう文学や医学に関わる豊富な知識を持った立派な人物なのだが、その知識に囚われてかトンチンカンな推理をすることもしばしば。
 ゲーム中では「凶器」に注目した推理を行う。

 ・ベヴァリー・ルイス
 女優やモデルなどを経て探偵士となる。
 きめ細やかな捜査には定評があり、ゲーム中では「ダイイングメッセージ」に注目した推理を行う。

 ・マイク・D・バーロウ
 船員として世界各地を回った後、英国に落ち着いて探偵士となる。
 ハードボイルドを地で行く捜査で事件を解決し、ゲーム中では「遺留品」に注目した推理を行う。

 ・「猫」
 童謡に見立てて探偵ばかりを襲う殺人鬼。現場に猫に関する遺留品を残してゆくことから「切り裂き猫(キャット・ザ・リパー)」の名で恐れられている。

 ・キッド・ピストルズ
 原作シリーズの主人公で、スコットランドヤードの刑事。髪をおっ立てたパンク・ロッカーだが推理能力は探偵顔負けの物を持つ。
 ゲーム中では主人公を犯人と見て追いかけてくるが・・・。

 ・ピンク・ベラドンナ
 キッドの相棒。パンク・ファッションに身を包み基本的に能天気だが、意外とセンチメンタルな一面を見せることも。

 ・「私」
 本作の主人公。記憶を失った状態で密室殺人の現場に居合わせたという最悪の状況から物語が始まる。
 フォローしておくと、「私」と言ってもメタ的な意味でのプレイヤーではない。彼もまたある秘密を持った登場人物である。


ゲームの流れ

 さて本作の「ゲーム」としての流れであるが、本作は調べたい箇所や移動したい方向に「カーソル」を動かしクリック、詳しい情報を得たり各アクションを起こしたりしてゲームを進行させる「クリックアドベンチャー」形式で進行する。
 その過程でアイテムを収集したり、仕掛けを解除させたり、といったパズル的な謎を解いてゆくのが本作の内容となっているのだ。

 そして全体の流れとしては原作「13人目の探偵士」を再現したものとなっており、事件発生後3人の探偵士から1人を選び、捜査に協力する内に探偵士100年祭が開催。そこで意外な事件が発生し、探偵士の推理の後に一連の事件が解決に向かってゆく・・・という内容。
 が、小説(ゲームブック)の内容をほぼそのままゲーム化してしまっているため、その内容にはいくつかの問題がある。

 先ずは、ストーリーが「探偵士」主導の物であること。
 原作では物語をスムーズに進めるために必要な狂言回しだが、ゲームにしてみるとプレイヤーの行動量を減らし物足りなさを感じさせる要因となってしまっている。

 また、作中にはいくつか2択を迫られるシーンがあるのだが、これを誤ると即、ゲームオーバーとなる。
 ゲームブックであれば物語に参加しているという感覚が得られるだろうが、実際のゲームとしては安直な感が否めない。
 それに、選択肢の部分に「しおり」をはさみながら読み進める・・・というゲームブック独特の感覚は、ゲームにおいてはセーブを強制されて面倒なだけである。

 そしてなにより、プレイヤーの思考や行動が反映される「ゲーム」という媒体でありながらも、主人公である「私」の推理を披露するシーンが無い・・・というのが大問題である。
 「私」は証拠品を集めることに終始しており、肝心な事件の全容については探偵士の推理にゆだねるほか無い。
 と、いうのに、3人の探偵士は全て誤った推測の元に調査を行なっており、誰一人として事件の真相にたどり着けない・・・という点まで原作同様なのである。

 あまりにも「原作そのまま」で、ゲーム化されたことによりかえって魅力を損なう内容となってしまっているのだ。


 ただ、探偵士から離れて自由行動するパートでは一般的なゲームと同様にプレイヤーの意思で行動を起こすことが出来、攻略に関係の無いサブアイテムを収集できる等それなりに自由度があることを明記しておきたい。
 証拠集めの段階で解く必要のある仕掛けも3人の探偵士でそれぞれ異なる解答が必要となっているなど、パズル的要素を見れば「ゲーム」としての体裁は一応整っていると言えるだろう。


グラフィック

 なお、狙ってやっているのか、本作のグラフィックはお世辞にも美麗と言えるものではない。
 パッケージでは細かなイラストとして描き込まれているキッド・ピストルズも、ゲーム中のキャラクターは単純なポリゴンで構成された、例えるならばブリキ人形劇といった状態である。
 その操作感からムービーゲーとしたが、画面はほぼ全て静止画と音声で構成されており、ムービーというよりは紙芝居に近い。

 パラレル英国を表現した技法・・・?と思えなくも無いが、もしそうだとしたらずいぶんと思い切ったことをしたものである。


・PS版・SS版の比較

 両バージョンにおける違いは無い(ハズ)。


・まとめ

 ゲームのように楽しめる小説、ゲームブックをそのままゲームにするとこうなってしまう・・・という一つの例、というべきか。
 「推理小説」のゲーム化なのだから推理を発揮するシーンでもあれば大化けしたかもしれないが、残念ながらそうはなっていない一品。
 ただ推理的要素はともかく証拠集めでのパズル的要素はしっかりと備えているため、現代で言う「脱出ゲーム」系として遊べばそこそこ楽しめるかもしれない。





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